壁面や床には、カンボン通りをイメージした白と黒のイラストが描かれており、銀座中央通りから一歩足を踏み入れると、そこはまるでパリ。実際にベンチが置かれていたり、イラストの街灯にはランプが灯っていたり、細部に至るまで街並みが再現され、女子心をときめかせてくれます。
改装中という、本来なら人が遠のきそうな機会もクリエイティブにこだわることで「期間限定だから行ってみたい」と思わせるこの仕掛け。2階より上のフロアは通常営業中なので、さながらカンボン通り風のこの空間に魅せられて、思わずお財布の紐も緩んでしまうのでは、なんて思います。
スペイン階段にパスタの広告
そこで思い出したのが、ヨーロッパの観光都市、パリやローマなどの工事現場。歴史的な街並みそのものが観光資源のこれらの都市では、築後数百年経つ建物を補修・保存しながら名所として人々を引き寄せています。そのため、とにかく改修工事が多い! 訪れるたびにあちこちで工事現場に遭遇しました。
ところが、その現場やほとんどは、元の建物のイラストが描かれたシートで覆われているため、クレーンや機材があったりするのに、表を歩いていても、あまり違和感がない気がするのです。街並みの雰囲気を壊さずに仕事を進めるおしゃれな工事現場は、とても印象的でした。
ローマのスペイン階段
写真は、イタリア・ローマのスペイン階段。正面奥に位置する改装中のトリニタ・デイ・モンティ教会の外壁には、元の建物を描いたイラストとイタリアらしいパスタの広告が目隠しとなっていました。
モナコのホテル・ド・パリも、見事に現物を描いたカバーが工事中の建物を覆っていました。どちらも工事現場が街並みに溶け込み、見事にカムフラージュされていました。
モナコのホテル・ド・パリ。イラストが描かれたカバーが建物を覆う。
観光地で目的地にたどり着いたときに、カムフラージュされたシートを見ると、「なんだ、工事中か」と残念に思う人がいるかもしれません。しかし見方を変えれば、こうしたカバーに覆われているのは「今しかない姿だ」とレア感も湧いてきます。私の場合は、その期間限定感にくすぐられ、愛着も生まれ、カメラのシャッターを必要以上に切っていました。
工事中という不利な状況を逆手にとり、建物を描いた目隠しイラストで景観に溶け込む。このセンスや遊び心が、街並みをも観光資源とするヨーロッパの都市の魅力のひとつであると感じます。ところ変わって日本でも、いま札幌の時計台がその真っ只中です。
札幌市の観光名所「時計台」も改修工事に伴い、今年の6月からカバーに覆われている。
今後もっと浸透してくると睨んでいる工事中のおしゃれビジュアル。ある種の期間限定感と、完成後を待ち遠しく思う期待感が、「改装中」のイラストには宿っています。こんな気の利いたビジュアルを目にすると、街歩きはますます楽しくなるのではないかと思います。
連載:経済を動かす「女子」の秘密
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