「30 UNDER 30 JAPAN」選出に際し、今秋に行われる、バンタム級最強を決めるWBSSトーナメントへ向けて準備を進める井上選手に話を聞いた。
その力強い言葉からは、まだ見ぬ「景色」を求めて世界の頂で戦う選手の矜持と、新世代ならではのフレッシュな肌感覚が見えてきた。
チャンピオンになってから、見る「景色」が変わった
──いまは、今秋に迫った、バンタム級最強を決めるWBSSトーナメントに向けて練習していらっしゃる時期ですね。
そうですね。実戦練習も含めて本格的になっています。調子もいいですね。
──2017年9月にはアメリカデビューも果たしました。グローバルな世界で戦うことに関して、意識していることはありますか。
海外で戦うメンタルに関しては、既にもう自分のなかにはあると思っていて。まったく体のつくりそのものが違うような選手と戦ったときに、どう対応するか──そういったフィジカル面で負けないようなトレーニングを積んでいます。
バンタム級にひとつ階級を上げているので、スタミナも問われる。耐久性を上げながら、普段練習でやっていることをどう試合に出せるかといった技術面も含めて、より濃い練習をしながら準備しているところです。
──未体験ゾーンでの試合になりそうですね。
そういう選手との試合で、自分で感じていなかきゃいけない。これまでいい勝ち方をしてきているので、正直、課題がない状態なんです。だから、このトーナメントに出て、ピンチの場面で底力が出せるのか、そこで何を感じるのか……。
終わったあとに、やらなきゃいけないことが出てくるはず。自分を改めて試せる、そういったきっかけの大会になると思います。
──未知の世界という意味で、これまで一番辛かった場面はいつでしたか?
プロデビューしてから6戦目、初めての世界タイトル戦のときですね(2014年4月6日、WBC世界ライトフライ級タイトルマッチのアドリアン・エルナンデス戦)。
初めて苦戦をしたというか、自分がベストコンディションをつくれなくて。試合中に「まだ早かった。甘かったな」と思ったんです。
そこを勝ち抜いていまがある、ということは、当時の試合映像を見てもすごく感じますね。
──そうした経験を経て、ご自身のなかでは何が変わりましたか。
モチベーションはもちろん、見る「景色」が変わりました。チャンピオンになる前は、チャンピオンしか目指してなかった。
そこがゴールだと思っていたんですけど、チャンピオンになってみたら、階級アップとか、やれることが増えた──そこからがスタートに変わったんです。新たな「景色」がひらけたいんですよね。
──ボクシングは、いきなり若手のすごい選手が世界のあちこちから登場してくるのも魅力ですよね。
強くても、国や場所、環境によって、タイトルにまだ手が届かないという選手もゴロゴロいる。実力がありすぎるがゆえに、タイトルに挑戦できない選手もたくさんいます。それは怖いところでもありますし、ボクシングの面白さのひとつですよね。