似ているからこそ対立する? 母と娘、争えぬ血の悲喜劇

(左)ジュリア・ロバーツ、(右)メリル・ストリープ(Photo by Jeffrey Mayer/WireImage)


一方、マティ叔母夫婦に目を向けてみると、騒がしく口うるさい妻と対照的に夫は鷹揚で優しく、葬儀に間に合わなかったおっとりタイプの息子を迎えに行ったシーンで、良い父親の顔を見せる。さらに、アイビーとこの息子との親密な関係も判明する。
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ドラマに登場する男たちは、冒頭で死ぬヴァイオレットの夫を筆頭に、皆、強い男性性を発揮しない。

やっと一族が揃い、葬儀後の食事のテーブルについたシーンから、予感されていた「嵐」がいよいよ近づき、ただならぬ緊張感が漂ってくる。

「嵐」の中心にいるのは、母バイオレットだ。暑いのでシャツ姿でいる男たちに上着を着るよう命じ、マティの夫に食前のお祈りを唱えさせる。つっかえながら不器用な祈りを捧げる彼を射る視線は、氷のように冷たい。牧師の悪口を並べたかと思えば三女カレンの連れて来たフィアンセに“尋問”を始め、せっかく出た笑いにも冷や水を浴びせ、座はいたたまれない雰囲気に包まれていく。
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受け継いでしまったものは仕方がない

娘たちへの敵意を露にし、どんな反応も嘲笑い、容赦ない皮肉で追い打ちをかけ、ヒヤリとするほどの辛辣さを機関銃のような喋りにのぞかせる母。そのいちいちに顔を歪めていたバーバラは、ついに堪忍袋の緒が切れ母に飛びかかる。母と長女の目も当てられないバトル。家族という体裁の下に隠されていたヴァイオレットの捻れた積年の思いは、夫の死によってタガが外れて噴出し、もっとも似ている長女に引火したのだ。

母の異常な精神状態は薬漬けのせいだと信じるバーバラは、妹たちと共に医師のところに抗議に赴く。その帰り、道端で停めた車から降りた母が錯乱して草原を走り出す後を追いかけるのは、アイビーでもカレンでもなく、バーバラだ。

憎んでさえいるが似た者同士の母の背中を必死に追う娘。それは、夫婦関係に行き詰まった先の見えない自分自身の姿を追っているかのようにも見える。

その夜、次女アイビーはようやく自分の秘密の恋を姉と妹に打ち明け、次いで、落ち着きを取り戻した母が、思春期に受けた母親からの精神的虐待を娘たちに話して聞かせる。そして一段落ついたかに思えた頃、この一家の女たちを決定的にバラバラにしてしまう事件が続けて起こる。

姉バーバラへの恨みを吐いて、フィアンセと逃げるように去っていく三女カレン。母親への憎しみを隠そうともせず、父と帰っていくバーバラの娘ジーン。ヴァイオレットが暴露した秘められた家族のタブーに、ショックを受け出ていく次女アイビー。

すべて結果的には、この一族の長女に流れる血によって引き起こされた出来事だと言えるだろう。「自我が強く辛辣で、自己主張によって人を傷つける」という性質は、ヴァイオレットの母、ヴァイオレット、バーバラ、ジーンと四代に渡って受け継がれ、トラブルの種を撒いてきたのだ。

しかし今更、母を憎んでも罵っても仕方ない。受け継いでしまったものを自覚し、辛抱強く付き合っていくしかない。最後に家を出たバーバラが車を停めて遠くの実家を臨み、ふと笑みを漏らすのは、自分のそんな宿命をようやく認めた証ではないだろうか。

連載 : シネマの女は最後に微笑む
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文=大野左紀子

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