ヨーロッパにいると、日本との差がかなり大きいことは痛感します。日本ではアートはマイノリティでありサブカルチャーにすぎないという状況が、今も変わらずある。少しずつは変わってきているのかもしれませんが、アートが社会の基盤になっているとはまだまだいえないし、今後についてもそう楽観的に考えるのは難しい。
アートが日本に根づくにあたって、ネックになっているのは教育、社会構造、ライフスタイル、価値観、インフラ……。いくらでも要因が挙げられます。その結果なのかどうか、30〜40代の現代アーティストが今、あまりにも少ないんじゃないかと思います。
海外へ出て、客観的に俯瞰せよ
とはいえ、環境に文句を言っているばかりでもしかたありません。どんなクリエイターにしても、まずは作品ありきだというのは大前提。あれこれ考えすぎて、つくる手が止まってしまうのはいちばんよくない。
今は何かと情報量が多いから、それに圧倒されて時間を無為に過ごしてしまうのは避けて、自分で生み出していくことを心がけるべきですね。
「PixCell-Maral Deer」(2017, photo by Nobutada OMOTE|SANDWICH)
若い人に勧めたいのは、やはり海外へ出ること。行けばきっと、いろんなことを客観的に見ることができるようになると思う。その人のつくる作品が劇的に変わるかどうかはわかりませんが、自分のやっていることの意味、立ち位置、作品の価値がすこしでも見えてくればいいんじゃないでしょうか。
大学院時代の創作に影響を与えた本を参考までに挙げますと、20世紀の哲学者・思想家ルドルフ・シュタイナーの著作ですね。シュタイナーを読むというのは当時の僕にとって、自分が見たこと感じていたことに、言葉が与えられるような体験でした。
造形芸術をつくるのに言葉が必要なのかという疑問は付いて回りますが、造形的なボキャブラリーと概念的なロジックの双方が合わさってこそ、作品ができあがっていくと僕は考えています。片方だけではうまくいかない。シュタイナーの著作には、造形芸術へのヒントがたっぷり含まれていたということです。
名和晃平◎1975年生まれ。彫刻家、京都造形芸術大学教授。独自の「PixCell」という概念を基軸に、作品を構成する要素や質感を追求した作品を展開する。2009年より京都・伏見区に創作のためのプラットフォーム「SANDWICH」を立ち上げ、様々なプロジェクトに携わる。