人口にしても60万人を少し超えるほど、周辺の都市圏を合わせても70万人をようやく上回るくらいで、日本で言えば、熊本市と同じくらいの都市だ。同じ西海岸の都市、ロサンゼルス(約380万人)やサンディエゴ(約140万人)と比べても、サイズはそれほど大きくはない。
冒頭で掲げた会社以外にも、たくさんのベンチャー企業が、続々とシアトル圏では生まれているが、それはいったいなぜなのか?
シリコンバレーから1時間半
広大なアメリカはどの都市も財政難を抱えているため、多くの企業を誘致し、ベンチャーを育て、雇用を増やそうしているが、けっしてその施策はうまくいっているとはいえない。
それでも子細に比べてみると、それぞれの都市における企業をめぐるマインドは微妙に違い、その僅かな差が大きな結果の違いを生むことになる。シアトルという都市は、アメリカのなかでもその成功を手にいれた典型的な都市なのだ。
地図を見ると、シアトルはバンクーバー(カナダ第3の経済都市)と国境を挟んで隣り合わせで、アメリカで最もカナダを商圏として抱えているという特典がある。2001年の同時多発テロで法律が変わるまでは、アメリカ人とカナダ人は、自国の運転免許の提示だけで往来ができた。カナダドルを受け付ける店があるのもアメリカ全土でシアトルくらいだろう。
さらに、ベンチャーキャピタル(VC)が集積するシリコンバレーから飛行機で1時間半という地の利もある。アメリカは本土だけで4つの時間帯を抱えるが、この両都市間には時差もない。ベンチャー企業に欠かせない資金調達において、ベンチャーキャピタリストは(意外かもしれないが)具体的な面談やライブでのプレゼンを重視するので、このシリコンバレーから近いというメリットは大きい。
さらに、ワシントン大学を中心として研究施設が充実している。これは、一世代や二世代前のベンチャーであるマイクロソフトやボーイングが、同大学に膨大な寄付金を投入し、その産学共同プログラムが、優秀な教授や学生を惹きつけているところからくる。
しかし、こういった商圏や資金調達機会や産学共同の強みとは別に、やはりこの都市固有の風土も大きく作用している。アメリカ西海岸の大都市は、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコ、ともに基本的にはリベラルな風土で有名だ。ヒッピー文化の発祥地はサンフランシスコだし、チャイナタウンは全米にあるとはいえ、西に行くほど大きくなると断じてほぼ間違いない。