7月、ロンドンから来日した注目のバンド「スーパーオーガニズム」の野口オロノ(メイン写真の中央)が撮影スタジオに現れる前、エミリー(後列、青いシャツの男性)がこんな話をした。
「オロノに初めて会ったときの印象? 見た目は10歳なのに話し方は30歳のようで、一体、何歳かわからず混乱したよ」
メンバーたちがドッと笑う。が、「混乱」というなら、もっとある。次の簡単な事実を並べただけでも、オロノの人生は謎めいている。
1. オロノがエミリーたちと会ったのは上野で、当時15歳だった。エミリーたちの来日公演を見たオロノがこの面々に話しかけ、上野駅のハードロックカフェで食事をして、翌日は一緒に上野動物園に遊びに行った。
2. その2年後の2017年、ニュージーランド出身のエミリーは、オーストラリア、韓国、イギリスなど多国籍のメンバーと、新バンド「スーパーオーガニズム」を結成。グループ名の意味は、多数の個体が集合してまるでひとつの個体のように見せる「超個体」のこと。17歳のオロノがボーカルとして参加し、デビューした。
3. バンドはイギリスのBBCが選ぶ期待の新人「Sound Of 2018」にノミネートされた。また、宇多田ヒカルは「自分の新曲を歌ってほしい」と企画を依頼。フランク・オーシャンが賛辞を送り、BBCの名物番組「Later with Jools Holland」が出演を依頼。遊び心にあふれたポップなメロディ、オロノが書く言葉のコラージュのような詩、そして彼女の歌が、「中毒になる」と言われている──。
2018年2月には「渋谷WWW」にて初の来日公演を果たす。アルバム「Superorganism」のリリース前にも関わらず、チケットは即完売となった。19年1月には3度目となる来日が決定
1〜3の経緯以上に、「オロノ」というカタカナが本名であること自体、謎めいている。オロノの実家を訪ねて判明したのは、「子どもの人生が開花するかどうかは、親のクレージーさに比例する」ということだった。
撮影スタジオに遅れて現れたオロノに、「お父さんに2日続けて会いました」と伝えると、彼女は無表情で「聞いてます」と返した。
「何を喋ったかは教えてくれないんですよ。今回のインタビューは、あの人(父親のこと)をメインにして、私はいらないと思うんです」
父親と会ったことに腹を立てているわけではない。インタビューは不要という理由は彼女のこんな言葉に表れている。
「自分も父親もほとんど同じ人ですから」