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スタッフと360日一緒にいる

僕は「kabi」の調理スペースで作業するスタッフたちを眺める。全員男性で、ほとんどが20代。日々仕事をする中で衝突はないのだろうか。

安田とともに「kabi」を開いたソムリエの江本賢太郎は「全くないです」とあっさりと答えた。「みんな友達なんですよ。1年のうち、360日くらいは一緒にいます」

安田に至っては「そもそも仕事だと思っていない」という。「僕たちが楽しく遊んでるところに、お客さんがやってきて、それを見てるという感覚です」

二人はワインバーで知り合って仲良くなり、店を開くことにしたそうだ。他のスタッフもみな、あちこちで知り合って仲良くなり、自然と集まった。

「あと、うちは年功序列とか階級はありません。何でも、やりたい奴にやらせる。それで失敗したら、知ってる奴が教えてあげればいい。叱ったり怒ったりすることは、ないですね」と安田。

こんなエピソードもあった。

「ハモの捌き方を誰も知らなかったことがあったんです。『じゃあユーチューブで見よう』って、みんなでiPadで見ました」

仲良すぎである。


店内の様子。綺麗なカウンター席が並ぶ

料理の作り方も、スタッフとの距離感も独特な安田。それはおそらく、彼の自然な人柄ゆえだろう。

「大自然の中で育ったので、裏山の木々 をショベルカーで開拓して秘密基地を作っ たり、そのへんに生えてる野草や野花を食べたり。野性的な子どもでした」

だいぶイタズラ小僧だったようだが、フレンチシェフの安田の父はこう話す。

「でも、人に迷惑をかけるような子ではないです。社交的で、よく友達を連れてきますね。正月に親戚一同集まるんですが、そこにも友達をいっぱい呼ぶんですよ。身内より多かったりもしてね」

時には料理の話で盛り上がり、息子の意見を取り入れることもあるのだという。

「いまは注目していただいているようですが、これからが勝負でしょうね」と、父の口調は優しかった。

安田は既成概念に囚われず、大きな器に全部を放り込む。デンマークの経験も、父のフランス料理も、和食の経験も、おばあちゃんの漬物も、各地の食材も。

スタッフやお客さんも彼に吸い寄せられるようにして集まったのだろうか。いや、あるいは安田がみんなと一緒にいたかったのかもしれない。

「僕、一人がそんなに好きじゃないんですよ」と、ふと呟いた姿が印象深い。

「今の夢は、人が泊まれる場所をつくること。友達を呼びたいんですよね。料理のことを考えるのは月に1~2回くらい。ギュッと集中して翌月のメニューを作って。他の日はだいたい飲み歩いてます」

苦笑していたが、そんな安田だからこそ仲間が集まり、心地よい空間ができた。

笑いや驚きをもたらす料理が生まれ、日々宴が続いている。「kabi」というライブを一番楽しんでいるのは、安田自身のような気がした。


Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Art」カテゴリーで選出された、料理家の安田翔平以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている



安田翔平◎1991年生まれ。大阪の料理学校を卒業後フランスへ。帰国後、大阪の二つ星レストラン「ラ・シーム」で働く。その後、世界最速で一つ星を獲得した東京・白金台のフレンチレストラン「Tirpse(ティルプス)」でスーシェフを務める。2015年12月から約1年間デンマークへ渡り、一つ星レストラン「Kadeau(カドー)」でシェフに。17年11月、目黒に「Restaurant Kabi」をオープン。

文=二宮敦人 写真=苅部太郎

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