ビジネス

2018.08.17 15:00

わが社が「世界で最も持続性が高い企業」に選ばれた理由


──未来をシミュレートしているようです。

素材の開発や、創薬等の実験においても、3Dシミュレーションは活躍しています。これまで新しい素材の開発は、研究者が「この分子とこの分子を組み合わせればこのような特性を持ったポリマーができるのではないか」と仮説を立てて、実験を行っていました。しかし当社のシステムを使えば、「このような特性を持ったポリマー」と設定すれば、何万というデータの中から、必要な分子の組み合わせの候補を逆算することが可能です。

例えば橋の素材は、いかに劣化を遅らせるかという点がこれまでの関心事でした。しかし現在、風・太陽光・水に対して、素材がどんな反応を示すのかをシミュレーションし、有機的に成長していくような素材の開発を進めています。まるで自然が人の体を設計するように効率よく設計をしていく。これはダッソーのソフトウェアのAI技術によって可能になっています。

医療分野では、歩行不可能な人が再び自力で歩けるようになるパワースーツの開発にも、ダッソーの3Dシステムは活躍しています。また、「リビングハート」という患者の心臓を3Dモデリングして治療方法を検討するシステムが実用化され、現在は脳を3Dモデリングするシステムの開発も進んでいます。

──顧客とダッソーのエンジニアは密になって、それぞれの産業のベストなプラットフォームの開発をしているのですか?

ダッソーにとってお客様は、「ともにソリューションを開発するパートナー」であり、お客様のビジネスとその周りの環境との関わりを一緒に考えていきます。

デンマークの靴メーカー、エコ社は、個人の足をモデリングしてバーチャルツリーを作成することによって、一人ひとりの足に完全にフィットしたシリコンソールを販売していますが、これは単に新しいサービスを提供するだけではなく、サプライチェーンの革新につながる取り組みです。

靴の生産がオンデマンドで行えるようになり、それまで単に出来上がった靴を販売していた販売員が、一人ひとりの足に合った靴を提案できることになる。靴業界の働き方を変え、物の作り方を変え、お客様に新たなエクスペリエンスを提供しています。


(左)心臓を3Dモデリングする「リビングハート」システム。心臓外科医のシミュレーションに活用されている。(右)3DEXPERIENCE FORUM Japan 2018で会場に設置されたシミュレーターの様子

──シンガポール政府とダッソーが共同で都市開発を行っていると聞きました。

シンガポールの町全体を3次元でシミュレーションし、人口密度、日照、生活、交通など、都市全体をバーチャルにモデリングしています。

この3次元モデルが共通言語となり、大気の流れをシミュレーションすることによって公害がどのように街に広がっていくか、地下や交通網をどう設計すればこの人口密集都市をより効率的にできるか、といった検討を、さまざまな分野の専門家が、視覚的に確認しながら行えます。さらにこのバーチャルモデルをオープンにすることで、市民や民間企業からの意見や提案を都市開発に取り入れることが可能です。

──サステナビリティを提供することは、ダッソーのバリューアップにつながっているのでしょうか?

もちろんです。企業はダッソーとパートナーシップを組むことによって、サステナビリティを高めることができ、さらにそのことをメッセージとして発せられるようになります。近年急速に機関投資家の投資評価基準とされるようになったESG(環境・社会・企業統治に対する取り組み)評価を高めることにもつながります。つまりサステナビリティが当社の製品の競争優位性になっているのです。

──ダッソーが今後、目指す世界は?

インダストリー・ルネサンスの実現です。当社の製品を活用してあらゆる産業が革新的なイノベーションを起こす。そのためには、単なるデジタル化・IT化ではなく、働き方も含めて、バーチャルなサプライチェーンの構築が必要となってくるでしょう。

シリコンバレーのスタートアップ企業、ジョビー・アビエーションは、まったく新しいタイプの製品として、自動運転の電動飛行機タクシーを造っています。彼らはデータセンターを一切持たず、世界中に散らばった開発者がバーチャルなチームを作り、当社のプラットフォームを使ってクラウド上で開発しています。

プロトタイプ(試作品)も3Dプリンターを利用して遠隔で製作します。タクシーと飛行機という既存の産業でありながら、企業も、働き方も、ビジネスモデルも、顧客も、全く新しいものが生まれる。まさに産業のルネサンス(再生)です。

ダッソーの企業理念は、「自然と製品、人々の生活が調和し、バーチャルから現実の世界を改善する」こと。そのために私たちは、製品だけでなく、人のサステナビリティにもコミットしています。

現在就学前の子供の65%は、現在存在していない職に就くという予想がされている。産業界と密に連携しているダッソーは、新しい職業に対応した人材育成にも力を入れて取り組んでいる。今後、子供たちが未来の職業に対応したスキルをつけていくよう、大学と連携し、さまざまな国の子供たちにエンジニアリングを教え、レーシングカーを開発してもらい、レースをしてもらうなど、様々なプログラムを実施しています。

ダッソーは、企業、人々の生活、教育など多岐にわたる貢献をしている。私がダッソーに加わったのも、これほどサステナブルで、社会にインパクトを与えられる会社は、他になかったからです。

文=嶺 竜一 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 「全員幸せ」イノベーション」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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