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2018.08.16

ハーバード大学はなぜ訴えられたか? 深刻さを増す米受験戦争

Marcio Jose Bastos Silva / Shutterstock.com


うがった見方をすれば、アメリカの高校生は、純粋にクラブ活動やボランティア活動に参加する余裕はなく、この活動がブラックボックスのなかでどう評価されるのかという計算を立てて参加している。「数式」の開示されていない計算をさせられている心の痛みは親にもある。

そして、万が一、すべての審査項目で満点をとっていても、その人間がアジア系だということで入学できないのなら、初めから教えておいて欲しいというのが親の正直な気持ちだ。

あるいは、入試申込用紙に、奨学金を希望するかしないかという質問欄があるが、これに丸をつけるかつけないかで入学枠が変わってくるということも、計算式がブラックボックス化している以上やはり「苦しみの推理」をやるしかない。

トップの座を揺らがす可能性も

ハーバード大学は、今回の訴訟でブラックボックスの開示を「企業秘密」だとして徹底的に拒否している。しかし、担当裁判長が、裁判の評議に不可欠だとして開示命令を出したときには、この国の大学入学審査システムは一気に変わる可能性がある。

いくつかの恣意的で不適切な審理過程がメディアに批判され、大学といえども透明な審理過程を要求されることになるだろう。その批判への対応を間違えば、天下のハーバード大学とはいえ、そのブランドを傷つけ、学歴社会のトップから引きずり降ろされるかもしれない。

今回の東京医科大学の不正入試を例外とすれば、日本の受験システム(一部のAO入試を除く)は、超公平な一発勝負だ。試験勉強への偏重やら、試験当日の体調の不具合がもろに作用するなど、たくさんの反論もあろうが、少なくとも完璧なまでにフェアゲームであることを誇りたいと思った。

苛烈な受験戦争は、日本や韓国、中国など、アジア特有のものだという認識があるかもしれないが、アメリカの受験戦争は、場合によっては、このようにかなり厳しい。入学試験の代わりの入学審査は、著しく透明性に欠け、いったいどんな基準で選んでいるのかわからない。

ますます学歴社会が進むアメリカで、大学入学のために努力を強いられるポイントがあまりにも多岐にわたりすぎている10代の若者、彼らにかかるプレッシャーは気の毒としかいいようがない。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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