「小学生の65%が今存在しない仕事に就く」は本当なのか

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映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の冒頭には、米作家マーク・トウェインのこんな言葉が登場する。「トラブルを生むのは、自分の無知ではない。実際には間違っていることを事実と思い込むことだ」

しかしこの言葉、実はトウェインが口にしたものではないという。それを踏まえると、この言葉には思慮深さや皮肉が帯びてくる。またこの言葉は、技術や未来の労働、教育システムの欠点についての人々の思い込みを考える上でも的を射たものだ。

次の3つのことは、非常に多くの人によって確かな“真実”だと受け止められている。

技術が仕事の本質を根底から大規模に変化させること、学校(特に大学)がそうした未来の仕事に向けた労働力を育てていないこと、教育方法が大規模な変化に素早く対応できなければ未来の労働力や企業、世界経済に何らかの危機が訪れることだ。

コンサルティングとテクノロジーの分野で世界を率いるIBMは今年5月、同様の見方を示す報告書を発表した。「The six new competencies Industrial companies need on their path to digitization(デジタル化に向けて企業が必要な6つの新たな能力)」と題した報告書では最初に、「現在の小学生の65%が、現時点で存在しない職種に就くことになる」という統計を紹介していた。IBMはこの数字を強調し、ソーシャルメディア上でも報告書の宣伝文句として使用した。

ここで、冒頭のマーク・トウェインの言葉に戻って考えよう。この65%という数字は、私たちが事実だと思い込んでいるものだというだけではない。実はこの数字自体が偽物で、単なるでっち上げであるようだ。

IBMの報告書の脚注には、65%の出典として、米経済誌フォーチュンに2016年に掲載された記事が示されている。同記事は米IT大手シスコシステムズのジョン・チェンバース会長(当時)が書いたものだ。チェンバーズは「現在小学校に入学する子どもたちの65%は、今の時点で存在さえしない職種に就くことになると推定されている」とのみ記し、脚注も出典も示していない。

同様のデータは、世界経済フォーラム(WEF)が2016年に発行した報告書「The Future of Jobs and Skills(未来の仕事とスキル)」にも登場する。同報告書には「現在小学校に入学する子どもたちの65%が、現時点では存在しない完全に新たな職種に就くことになる」と書かれ、出典としてスコット・マクラウドとカール・フィッシュの「Shift Happens(変化は起きる)」が記されている。

「Shift Happens」は、2007年からユーチューブで公開され話題を呼んだ動画シリーズだ。素晴らしい出来ではあるものの、今となっては非常に時代遅れな内容で、SNSのMySpace(マイスペース)の普及を未来の技術の例として挙げている点はもはや別世界的だ。しかし、問題は時代遅れであることではなく、根本的な正確性だ。

制作者の一人であるコロラド大学デンバー校のスコット・マクラウド准教授(教育リーダーシップ学)に話を聞いたところ、この65%という数字は「私たちが使ったことのないデータであり、どこから出たものか分からない」との回答だった。
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編集=遠藤宗生

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