この数字に戸惑いを見せたのは、マクラウドが初めてではない。英BBC放送は2017年、丸々1セグメント分の放送枠を使い、この数字が偽りであることを指摘した。また教育ブロガーのベンジャミン・ドックスデーターも同年、この数字の由来を徹底的に調査し、「真実ではない」という結論に達している。ドックスデーターによると、これと似たような主張は少なくとも1957年には出現していたという。
考えてみれば、子どもの65%が現在存在しない仕事に就くとは考え難い。そのためには、シェフや犬の散歩代行業者、弁護士、ソフトウエアエンジニア、銀行員、非営利団体のディレクターなどの仕事が全て、今後10~20年の間に未来技術で置き換えられなければならないのだ。
そのため、IBMが今年5月というごく最近にこの数字を用い、企業や学校は必ず到来する大きな技術変革に備えて新たな労働者世代を育てる必要があると論じたのは、恥ずかしく不可解なことだ。
IBMの広報担当者に問い合わせたところ、「この点に関するIBMの立場は、人工知能(AI)が全ての仕事を置き換えることはないかもしれないが、全職業を変化させるだろうというもの。そのため、現在知られている仕事は将来、違うものになる」との回答だった。
間違った情報を引用したのはIBMだけではない。前述のように、WEFや(シスコを通じ)フォーチュン誌なども事実を検証せず、この数字を繰り返してしまった。
これこそが問題だ。これがインターネット掲示板に匿名で投稿されるような統計であったら話は別で、多くの場合は無視してしかるべきものとなる。しかし、IBMやWEFなど、本来信頼できる情報源であるはずの組織が、独り歩きしてしまうような偽りの情報に基づいて全調査報告書を作成すれば、企業や学校に何を望むべきかという問題に関する誠実な議論が損なわれてしまう。
読者の方も、自分の読むものについてはより懐疑的にならなければいけないことは確かだ。しかし、IBMなどの組織は、周囲でささやかれているデータをそのまま繰り返してはいけない。ここで、マーク・トウェインが残した別の言葉を紹介しよう。「うそには3種類ある。うそ、大うそ、そして統計だ」
もっともらしく聞こえるかもしれないが、実はこれも間違い。この言葉もまた、トウェイン自身のものではないとされている。