ビジネス

2018.08.16

後発参入のDeNAが「タクシー配車アプリ」に見出した勝算


ドライバーの生産性を底上げするAI需給予測

同サービスはウーバーなどと競合するため、多くの人は「後発でどうやって勝つのか?」と疑問に思うはずだ。しかし江川は、ウーバーよりも日本の市場にマッチした配車アプリが生まれる可能性は高いと考えている。

 

「タクシー配車アプリの成功には、地域性が大きく関わってきます。ウーバーがアメリカでヒットした背景には、自動車保有率が高く、パートタイム労働者が多いという要因も考えられる。一方で、東南アジアの配車アプリも、地域に最適化させることで乗務員のニーズを掴んでいる。一例としては、乗務員への支払いを、賃金ではなく、その日すぐに食べられるお米で支給するといったことも行われている。同様に中国ではDiDiが市場を握り、全世界で同じ形式を貫いているウーバーはアジア展開であまり上手くいっていません」

江川は、日本に適した配車アプリに必要なのは、タクシー事業者との提携だと考える。日本のタクシー事業者は、毎日の出庫時帰庫時の呼気アルコール検査など安全管理がしっかりしており、事故率も高くない。また、一般社団法人東京ハイヤータクシー協会が2018年に発表したデータでは、東京都でのタクシードライバーの平均年収は417万円だという。

「他のサービス業種と比較しても、決して安くはありません。しかし、タクシー乗務員には過酷で薄給だというイメージがあるせいか、乗務員の人員は不足しています」



江川曰く、同じ地域でも儲かる乗務員とそうでない乗務員の差はかなり大きい。タクシー事業者では乗客が払った料金の一定割合が乗務員に支払われるため、効率よくお客さんを乗せるほど乗務員の給料は上がっていく。同じ時間、同じ地域で働く乗務員でも、売り上げは2倍以上の差が開くことも多い。

そうした事実を踏まえ、タクベルでは収集した走行データをもとに、現在の走行位置などに応じて営業エリアをいくつかのグループにクラスタリング。流し営業を行う場合に客をピックしやすい路地を提案するなど、乗務員の生産性の底上げを狙う。

「上手な乗務員は、客を拾える路地を把握し、効率的にルートを回っています。各地域の繁華街などのタクシー需要の多いエリアは少し経験を積めばすぐに把握できますが、例えば、3つ手前の信号からスピードを調節して、大通りの交差点の先頭に停まるよう計算する人もいます。ここが一番、お客さんに拾ってもらいやすいからです。

こうした状況では、エリア毎のタクシー需要数だけ提供しても効果は薄い。「将来的には人通りと周辺のタクシーの数から需給のバランスを分析し、各車両に向かうべき方向を提案できればと思っています」と江川は語る。

さらに、今後は乗客による接客態度などを含めた、より高度な評価システムの導入も検討しているという。客の輸送効率のみを給料に反映した現状のシステムでは、接客の丁寧さや乗客の満足度を向上させることができない。

江川は、タクシー乗務員にはより高度な技術が必要だと考えている。



「乗客は必ずしも目的地に早く着きたいわけではありません。場合によっては、速さよりも、急加減速をしない穏やかな運転を優先して欲しい場合もあるはず。安全運転や優れた接客を提供する乗務員にもリターンが生まれるシステムをつくりたいですね」

2018年はさらにサービス地域を拡大し、2020年には配車回数国内ナンバーワンを目指す。客の希望に合わせた乗務員の提案や自動運転技術の導入など、できることはたくさんある。

「日本のタクシー業界には良いところがたくさんある。それを生かしつつ、足りない部分をテクノロジーで補えば、きっと日本に最適なサービスになるはずです」

文=野口直希 写真=小田駿一

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