ビジネス

2018.08.16 08:00

元日産CCOが明かす、デザイナーが活きる組織の条件





土屋:中村さんが名乗ってから、他社でもCCOの使用が広がっていったような気がします。

中村:CCOというタイトルは社内ではすぐに馴染めなかったようですが、やはり広告代理店からの反応がよかったです。単なる肩書ですが、社内外からの接し方は変わりますね。

デザインに責任を取る姿勢が、日産キューブを産んだ

土屋:ほとんどの経営者はデザインのことをあまり理解していないような気がしますが、日産の場合はどうだったのでしょうか?

中村:おっしゃるように「デザインが重要だ、経営をデザインに取り入れたい」と言っていても、実行段階になると「任せるよ」と責任を放棄する経営者が多いのも事実です。

経営者がデザインの価値を理解しているかどうかは、デザイン部門の責任者にとって最大の問題です。ゴーンとは入社前の面接でしっかりお互いの考え方を確認しました。そのときに彼が「社長の自分がデザインに決める責任をもつが、それでいいか?」と言ったんです。私もデザインは社長が決めるべきだと以前からずっと考えていたので、彼のデザインに対する強いコミットメントを感じて、オファーを受けることにしました。




デザインに真剣に取り組もうとしているかどうかは、経営者とじっくりと付き合うなかでわかるはずです。デザインに責任を持つということは、いいデザインをする環境づくりにも責任を持つということです。会社に入ってから分かったのですが、ゴーン自身がデザインやアートのへの関心が高く、クリエイティブの価値を理解しよう努力していましたね。

土屋:デザイナーの力を活かす土壌があるから入社を決めたわけですね。日産での仕事で、印象的なものはありますか。

中村:そうですね、キューブのデザイン決定会議での論議はよく記憶しています。キューブはいまでもユニークなデザインだと好評ですが、実はデザイン決定会議ではかなり反対された。「バックドアが左右非対称の生産非効率なクルマなんてありえない」となかなか理解されませんでした。

土屋:そうだったんですか。

中村:ええ。デザイン決定会議では最終案と少しコンサバな案の2案がありました。最終案のデザインはお客の期待を超える魅力があるので、私は自信を持って推薦しました。でも、コンサバな案を支持する人が圧倒的に多かった。

私の推薦する最終案に賛同してくれたのがゴーンと副社長の二人だけでした。他の役員からの否定的な意見が止まらない中で、「このコンセプトは素晴らしい。社長の私が決めたんだから、これ以上の議論は不要」と一喝してくれたんです。この強いサポートがあったからこそ、キューブのデザインは生まれた。世に出たキューブは、ご存知の通り大ヒットになりました。

土屋:デザインに対する責任をゴーンが引き受けてくれたから、中村さんも大胆な仕事ができたわけですね。

中村:はい。デザインの全ての決定に社長が参加する必要はありませんが、成功も失敗も社長が責任を引き受ける姿勢がなければ、なかなか思い切った挑戦はできません。

高額な投資案件を社長の判断抜きで進める会社はありませんよね。デザインも実は大きな投資であるわけで、デザインの意思決定を社長が直接下すというのは、会社の意思決定レベルにおけるデザインの重要度を示しているということです。




ただ、経営に対して期待する一方じゃダメです。デザイントップの責任は、デザインをビジネスとして成立させること。任せておいたら必ず成功する、という信頼感を経営者に与えること。信頼は実績を重ねることから生まれます。それと、経営がデザイナーに何を期待しているのかを把握すること。経営者とビジョンを共有することが不可欠ですね。

土屋:ありがとうございます。デザイナーがマネジメント層を担当する際に欠かせないエッセンスがたくさんありました。

連載:デザインとビジネスの交差点
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文=野口直希 写真=小田駿一

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