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2018.08.18

四畳半から変わる未来──北川フラムが語る「大地の芸術祭2018」

大地の芸術祭総合ディレクター 北川フラム


均質空間を抜け出し、新しい美術への挑戦。それが2018年の方丈記私記

また、もう一つ大事な考え方があります。それは、現代の建築やアートは、ミース・ファン・デル・ローエが提唱した「均質空間」という概念を未だに超えることができていないということ。均質空間以降の世界は、100坪の土地に鉄柱とカーテンウォールを設置して、上へ上へ建物を積み上げていく、ニューヨーク摩天楼のようなものが一般的になります。空調や下水を整えれば、住居にもレストランにもショップにもなるんです。

でも、それぞれの部屋には季節も匂いも何にもない。まるで均質空間のようで、先ほど話した実験室のようなものです。これは、都会だけでなく地方にも同様のことが起こっています。均一なモールができて、そこに新しいショップが入れ替わり立ち替わりされている状況。

新潟県十日町市もまた同じ運命を辿ろうとしています。ここで止めなければいけない。むしろ、この街が日本、否、世界でも最も新しく尖ったものをやればいい。十日町市は、世界の地域を考える上で新しいイノベーションの起こる場、事例にならないといけないんです。

均質空間を超えることができないか。建築にもっと新しい提起ができないか。新しい地域の発想はできないか。21世紀的な視点で、美術を再考できないか。そこへの挑戦が今回の方丈展です。



いま地域が立ち上がる。100年後への狼煙をあげよう

十日町市の商店街に目を向けると、使われていない場所が数多くあることに気づきます。2階の部屋やショーウィンドウ、屋上など用途も大きさも雑多。でも、もしそこに均等な4畳半の大きさのボックスを入れていけば、何でもできることになります。

それぞれのボックスの中には、多様なアクティビティが入ります。たとえば、サウナができたり、超人気コーヒー店やかき氷屋ができたり、スタンディング酒バーもそうです。その多様なボックスが一つの地域に50から100個集まったら、ショッピングモールを遥かに凌駕します。週末に女の子たちが、晴海や汐留より十日町市へ行こうよ、という話になる。

こうして新しい村が誕生します。これが2021年までにやっていきたい未来。そしてこの村の形は、この十日町市以外にもたくさんの場所で立ち上がっていくわけです。それがもう少し先の、100年後の未来かもしれません。

今回の企画展はこの未来構想への、1歩目と捉えています。まずは28個の方丈にアーティストたちが面白おかしく考えて、それぞれの想いで楽しく表現していきます。提案にあったのは、ヘッドフォンをして一人カラオケができるママさん駐在のカラオケバーや、空間を独り占めできる美容室。僕(北川フラム)の人生相談室を作る提案もありました(笑)。

これらの発想は無限大。実際、建築でできることは限られているので、建築家たちはアクティビティに向かっていて、建築空間の中で何をするかに注目が集まっています。その中で今回の方丈展。面白くない訳がないんです。

実際、この発表をしてから嬉しいことがたくさん起こりました。参加表明をしてくれたのは、伊東豊雄やジョン・クルメリング、ドミニク・ペローなど名だたる建築家やアーティスト。総勢250件くらい応募がありました。さらにカルティエのディレクターがすぐ電話をくれて、今までで最も刺激的なアイデアの企画展だと言ってくれました。これにはニヤケてしまいましたね。やったぞって。
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文=成瀬勇輝

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