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今年で27回目を迎えた「モンブラン国際文化賞」の授賞式が、2018年8月8日に寺田倉庫B&C HALLで執り行われた。同賞は世界17カ国で授与されているが、今年の受賞者は寺田倉庫。法人格としては日本初の快挙であり、授賞式には世界的建築家の隈研吾もかけつけるなど盛大なパーティとなった。


イベント会場は熱気で溢れていた。ホール内には植物を使ったアーチなど美しい造形が施され、いたるところに国内若手アーティストたちの作品が展示されている。モンブラン文化財団チェアマンによるウェルカムスピーチの後、受賞者である寺田倉庫の中野善壽が登壇。トロフィーと共に、世界に2本しかない特別限定品万年筆『パトロンシリーズ』および15,000ユーロの小切手が贈呈された。

『モンブラン国際文化賞』は、文化芸術分野において、若い才能の育成などに尽力する「アートパトロン」を称えるという独自性の高い賞。主催するのは、アートの支援を通じ、革新的な発想が世界中で生まれることを使命として1992年に設立された『モンブラン文化財団』。世界的な高級筆記具ブランドである『モンブラン』が母体となっている。日本では1994年の故・佐治敬三(サントリー元会長)を筆頭に、オノ・ヨーコや市川猿翁、小澤征爾など錚々たる面々に贈られてきた。海外に目を向ければ、英国皇太子殿下や、ファッションデザイナーのアニエス・ベー、建築家のレンゾ・ピアノらが受賞している。

中野は喜びの声と共に、すべての人たちに感謝を捧げる意味で、会場を拍手で包むという演出を披露。また、同社オーナーの寺田保信をはじめ、役員全員を登壇させるなどチームとして喜びを分かち合った。



今回、フォーブスでは、なかなか会うことのできない方として知られている受賞者、中野善壽に話を聞くチャンスに恵まれた。「あまりにもメディアに顔を出さないので、実は架空の人物なのではないかと疑われているんです(笑)」と、軽快なトークからインタビューはスタート。まずは、受賞の感想を伺った。

「とても嬉しいと同時に、誇りに思います。何が誇りかというと、うちのスタッフがこれまでやって来たことが認められたということ。しかも、こんなに大勢の方にお祝いしていただいて。今日お集まりいただいた方々は我々のサポーターであり、皆さんのおかげでやっと船体の先っぽが見え、そのタイミングでモンブランさんから評価をいただいたと思います。
当初、私個人が受賞するというお話があって、それは辞退させていただいたんです。あくまでもチームで活動してきた結果ですから。日本では税制とかいろいろな面で、個人がアートを支援するのには限界がある。ゆえに、日本におけるアートパトロナイズは企業がやらないと難しいと考えています。アートに限らず、文化活動全般のクオリティを底上げするためにも、さまざまな企業が支援活動をおこなって欲しいと思っています」

寺田倉庫が拠点としている天王洲エリアは、ここ数年でアートの街として急速な発展を遂げている。その中心となっているのが同社であり、専門性の高い美術品の保存、保管にはじまり、修理修復、梱包、輸配送、展示までのワンストップサービスの提供や、さらにはミュージアム、ギャラリースペース、画材ラボなど多岐にわたる施設やサービスが集積されている。それに呼応するかたちで、おしゃれなカフェやショップなども誕生しており、世代を超えて多くの人々に注目され始めている。そもそも、なぜ寺田倉庫はアートシーンに着目したのだろうか。

「弊社の保存保管ビジネスには、長い歴史があり、また管理運営の高い技術があります。ただ、その技術をもってしてもアート作品というのは置いておくだけだと劣化してしまう。そこで我々は『ものを預ける倉庫』ではなく、『ものの価値を高める1000年倉庫』を目指そうと考えたのです。最高の保存保管環境を整えるため設備投資を行う、最先端技術を導入した修復工房をつくる、展示するためのギャラリーや、ミュージアムをつくる、といった取り組みが、結果として既存ビジネスに高付加価値を生み、天王洲をアートの街にしたと言えます」


イベント開始前に言葉を交わす中野と、モンブランジャパンの代表シャルル・ラングロワ(右)

自身もアートコレクターとして知られる中野。高額なものは持っていないと語るが、季節ごとすべての部屋の作品を架け替えるというから、その情熱の高さは広く知られるところだ。一方で、2010年の社長就任以来、すべてが順風満帆ということではなかったという。

「最初の一、二年は土台を作る必要があったので、文化芸術発信はしていませんでした。日本企業の古い習慣というか、そういうものから脱却するために随分と時間がかかりましたね。それはもう戦いですよ(笑)。私はワンマンでどんどんやっていくタイプなので、周囲にはたくさん迷惑をかけたと思います」

それでもここ数年、立て続けに新しいサービスを生み出し、日本のアートパトロナイズの代表的な企業となった寺田倉庫。古希を超えてもなお、意気揚々とチーム寺田倉庫を牽引する中野。同社の未来をどのように考えているのか。

「先日『FUN』というサービスをデビューさせました。これは、物流も付帯しながらモノとコトをつなぐ、なんでもできてしまうプラットフォーム。ワインもアートもメディアアーカイブも、すべてこのプラットフォームに紐づいた事業にしていきたい。そして、他社さんにも解放しながらグローバルに展開し、世界のマーケットで0.01%のシェアをとろうと考えています。逆にいうと、0.01%以上はとらない。そうやって限定することが、クオリティの向上となり付加価値になると考えているのです」

贈呈された特別限定品万年筆『パトロンシリーズ』については、「素晴らしいアート作品ですので飾っておきます」と語った中野。賞金となる15,000ユーロは、新しく発足するモンブラン&テラダ財団に寄付し、障害を持つ子どもたちのアート活動を支援していくことを発表した。

授賞式会場では、モンブランジャパンCEOのシャルル・ラングロアにも寺田倉庫の取り組みに対する評価を伺った。



「寺田倉庫は、会社として個人を支援されています。また、ただのメンターではなく経済的にもサポートしているという点において、弊社のフィロソフィーと共通する点が多く共感しています。日本のアートはアバンギャルドであったり未来的であったり創造的なものに溢れています。それらを生み出すアーティストを支援する活動が、今回の賞を通じて広がっていくことを期待しています」

受賞者に贈呈された特別限定品万年筆は、バイエルン王ルートヴィッヒ2世にインスパイアされたスペシャルモデル。各年の受賞者と、モンブラン博物館に収蔵される数しか生産されない希少な作品となっている。

「ルートヴィッヒ2世は、作曲家のワーグナーを支援したことで知られる当時のキュレーターであり、今でいうスポンサーでした。この作品には、鳥の柄や花の模様、スケルトン、壁画、王の間などさまざまなモチーフが散りばめられ、素材も透明の白ラッカー、プラチナ、ゴールドなど多様なものが使われています。それらのディティールにはクラフトマンシップが垣間見られ、素晴らしい芸術品として仕上がっています。ルーペで細い装飾を覗いたり、何がモチーフになっているのかを発見したりと、毎日何か新しい発見ができる作品となっています。これを機に、より多くの方に、ルートヴィッヒ2世が成し遂げた偉大な功績やスピリットが再評価されれば幸いです」


(写真上)中野善壽に贈られた〝2018年モンブラン特別限定万年筆 パトロンシリーズ「ルートヴィヒ2世」〟

Promoted by Mont Blanc japan text by Eizaburo Tomiyama | photograph by Setsuko Nishikawa

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