ただし、その本質を組織のメンバーが十分に理解し、行動を変えていくことはなかなか難しい。最初の記事にも書いたとおり、異質な人と対話した経験がない場合、「多様性を活かしましょう」と言われても、すぐにどうにかできるものではない。
当然、単純に女性の管理職を増やしたり、障害者雇用を進めたりするのみでは難しい。もちろん、きっかけにはなりだろうが、表面的に「違う」人を歓迎し、組織の中に配置するのみでは、インクルーシブな組織とは言えないし、イノベーションなんて起きないだろう。
本連載では、そのためのヒントとなる考え方をいくつか提示してきた。本稿では、それらを踏まえ、さらなる提案をしたい。
1. メンバーが心から「好き」と思える共通言語をつくる
多様性といったとき、お互いの異なる点のみに着目しがちだが、共通する何かしらの価値観を持っていなければ、共にチームとして動くことは難しい。
逆に共通言語があれば、どんなにお互いが違う部分を持ち合わせたとしても、共感し合うことができる。
どの組織もビジョンや行動指針を持っていると思うが、それらはメンバーの行動を強いるものではなく、「そうしたい」「そうありたい」と思えるもの。つまりメンバーが「好き」であったり、心から信じたいと思えたりるものでなければ、なかなか機能しないであろう。
それは組織であっても、教育における学校や学級目標も同じではないだろうか。先生が「みんな仲良く」と言ってそれを掲げたとしても、子どもたちが本当にそうしたいと思えなければ、ただの絵にかいた餅になる。
多様性を活かすために重要となるひとつの要素は、メンバーが好きであり、誇りに思える共通言語がどれだけあるか。どんなに違いがあっても「ここだけは同じ」と思える部分を持つこと。
そのためには、トップダウンで誰かが物事を決めるのではなく、多様な立場の人がフラットに組織のミッションや目指す方向性、そのために必要な文化や行動様式をフラットに話し合える機会を戦略的に作り出すことが重要だ。
そのような共通言語があれば、衝突が起きた時や悩ましいとき、常にそこに立ち返ることができる。
2. 目に見える違いのみでなく、目に見えない違いがあることを認識する
多様性といったとき、見た目やわかりやすい属性の違い、すなわち国籍や性別、障害の有無や、働き方の違い、つまり子育て・介護に着目しがちである。
だが、多様性とは属性や働き方のみに関わることではない。
例えば、本連載でお伝えしてきたような、「感じ方(感覚)」の違いや、注意の向け方、集中の仕方の違いも多様性を示すものさしのひとつである。その他にも、その人の有する多様な能力、その人が何に価値を置くかも人によって大きく異なる。
そして、これらの目に見えづらい違いによる衝突の方が、目に見える違いによる衝突よりも、多いのではないだろうか。目に見えないものは怖く感じられることが多く、目を背けがちである。
最近、起きた衝突を思い出してほしい。家族でも、職場でも、衝突が起きるときは、お互いに大切に思うことが異なるだけかもしれない。もしくは、自分にとって当たり前だったことが、相手にはとって当たり前でなかっただけかもしれない。