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2018.08.17

東京から40分 熱海がいま「想像以上に熱い」理由

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A-bizには旅館やホテルからの相談が多いのかと思いきや、そうではないらしい。

「既存の観光業の方よりも、新しい商品やサービスを開発したい、イベントを開催して街を盛り上げたいといった小規模な事業者や個人からの相談が多いのが特徴です」

A-bizのような新規事業支援センター、「Bizモデル」は昨今、全国に広がっている。その最初は2008年に静岡県富士市のf-Bizで、“行列のできる相談所”として有名だ。A-Bizも、全国のBizの中でも人口当たりの相談件数は比較的多い方ではないか山崎氏は言う。

「小さな街ですから、情報ネットワークが緊密なんでしょう。A-bizにも紹介の紹介でどんどん相談に来てくれます。そんな様子を見ていると、逆に問題点も浮かび上がってきます。せっかく緊密なコミュニティがあるのに、いざビジネスとなるとそれを上手く活用できない。必要なところに必要なサービスを届け、ビジネス化させる。今後、A-bizをそのためのハブ的な存在にしたいと考えています」

若手事業者が新風を吹き込む

A-bizの相談者のもうひとつの特徴が、高齢者が多いという点だ。熱海の高齢化率は約45%。これは全国的に見てもずば抜けた数字だ。いわば、熱海は来たる本格的な少子高齢化社会を先取りしていると言える。また、人口減少にも歯止めがかからないという実態もある。

「それが必ずしもマイナスというわけではありません。東京でバリバリ仕事をして、豊富な経験を積んだ方々がリタイア後に別荘に移住してきていますが、彼らがもう一度、熱海の地で何か新しいことを始めたい、若い人にノウハウを伝えたいという相談も多くあります」

確かに、実際に住んでみても高齢化は実感させられる。しかし、その一方で若手の地元出身者や移住者の活躍も目立つ。「熱海の奇跡」の著者、市来広一郎氏(1979年生)は、東京から熱海にUターン。空き店舗が目立っていたメインストリートを活性化すべく、ゲストハウスを開設したり、コワーキングスペースやシェア店舗をオープンするなど、様々な事業に取り組んでいる。

また、まちづくりや新規事業立ち上げに関するトークセッションなどのイベントも頻繁に開催されており、市外からも多くの人が熱海に集まる。実際、それに刺激を受けて熱海に移住してくる人も少なくない。

「都心から近いこともあり、多様なワークスタイルを実現できることも熱海の魅力です。二拠点生活を実践し、熱海と東京で異なる仕事をしている人もいます。また、移住を機に、東京で不動産業に携わっていた経験を生かし、移住促進の事業に取り組んでいる人もいる。そうした30〜40代の若手の方々が熱海に新しい風を吹き込んでいます」

筆者自身、週に2〜3回は仕事で東京に通っているが、新幹線で40分程度という移動時間は、都心との隔たりを感じさせない。このほどよい距離感は、観光だけでなく、移住促進やビジネスにおいても、今後さらに生きてくるのではないだろうか。
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文=高須賀哲

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