しかし、バブル崩壊後は観光客が大幅に減少し、多くの旅館が廃業。一時はかつての隆盛が見る影もないほどに衰退していた。しかし、ここ数年は観光客が増加傾向にあり、女性や若者にも人気の観光地として復活を遂げている。
そんな熱海に昨年、筆者は移住した。熱海がどのような場所かもよく調べず、温泉と海があり、都心に比べてマンションの価格が安いという極めて安直な理由だった。
初めは観光気分で熱海暮らしを楽しんでいたのだが、小さな街ゆえ、地域の人たちとの交流が自然と生まれる。そして、多くの地元出身者や移住者が、街を盛り上げるべく数々の新たなプロジェクトやビジネスを立ち上げていることを知る。
人口は3万7000人程度。2000近くある事業者の半分近くが旅館やホテルなどの宿泊業で、残りの多くは、飲食店や個人商店、サービス業。かつて「東洋のハワイ」と言われ、新婚旅行先ナンバーワンだった街の産業構造は、今も基本的に変わらない。
その一方で、従来の観光業とは一線を画すスモールビジネスが熱海にさらなるエネルギーを与えつつあるのだ。気づけば、筆者もその動きに巻き込まれ、あるプロジェクトチームの一員となっていた。
住んでみて初めてわかったことだが、熱海は想像以上に熱い街だ。そこでいま、何が起きているのか。具体的な例を挙げてこれからレポートしていきたい。
相談が絶えることのない「A-biz」
いまの熱海のビジネスシーンで何が起こっているのか。熱海市と熱海商工会議所が連携し、2012年10月にスタートした「A-biz(熱海市チャレンジ応援センター)」チーフアドバイザーの山崎浩平氏に話をうかがった。A-bizには、熱海でビジネスをしている人や、これから起業しようとしている人々から、年間約1000件の相談が持ち込まれる。
A-bizチーフアドバイザーの山崎浩平
従来の機関の経営サポートとは異なり、企業の売上を上げることに特化し、IT、デザイン、セールスプロモーション、マーケティングなどのアドバイスや、人と人、人と企業のマッチングの手助けを行う。
山崎氏はオリエンタルランドで人気商品の開発を手がけた後、海外大手アパレルブランドの日本法人で販売促進を担当するなどしてビジネススキルを磨いてきた人物。その経験を熱海の活性化に生かすべく、2017年、A-bizに転職。チーフアドバイザーに就任した。