ビジネス

2018.08.14

その社長は「消化試合」を戦っていないか?

業績を伸ばしたスターバックスのハワード・シュルツ元会長(Getty Images)


当社の投資信託であるひふみマザーファンドは、7700億円になった(6月8日現在)。日本の投資信託ではほぼ最大規模になった。すると今度は、「そんなに大きくなると運用できなくなるのではないか」という批判が出る。もちろん、1億円のファンドと1兆円のファンドではまったく同じ運用になるわけではない。

とはいえ、世界をみると兆単位のファンドは山のようにある。その中でも成果が出ているファンドはたくさんある。そして実際には100億円以上のファンドで、ひふみ以上の成果を出している日本株ファンドはそれほど多くはない。特に、シャープ・レシオ(リスク対比のリターン)における3年や5年の期間ではほぼトップクラスだ。なぜそのような運用ができるのかというと、

「消化試合をしている会社に投資しない」ということに尽きる。

逆に言えば、多くの日本のファンドが「消化試合をしている会社に投資している」。というのは、日本の大企業のほとんどが、そのような消化試合構造にあるからだ。そういった会社が長期的によい数字を出すことはなかなか難しい。社長になることがゴールである人の率いる会社が、うまくいくはずなどないだろう。

ベンチャーの有名企業でも、実態は上場ゴールの会社が多い。創業者が上場に成功すれば、大企業のサラリーマン経営者を上回る資産を持つことができる。豪邸が建てられるし、別荘を持つこともできる。そのような中でモチベーションを維持し、がんばることは難しい。

すると、「社長ゴール」になっている大企業の社長以上にやる気を失うことがある。社長のやる気と会社の経営の成長性は密接に結びついている。「上場ゴール」の企業への投資は、社長ゴールの大企業以上にお金を失う可能性がある。そこで上場ゴールの会社に投資をしないことが、ファンドの成績を上げる秘訣になる。

最近のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の議論は、「大過なく物事を進める」というような価値観から、「持続可能な成長をしていく」という価値観に移りつつある。これはとてもよい流れだ。

なぜなら、社長ゴールであるような人にとってはより大きなプレッシャーがかかるからである。社長になることが社会人生活のゴールではなく、社長になってからどれだけ成果を出すかが求められるようになってきた。サラリーマン社長にとっては、苦労して社長になったのに、その後にいっそう苦労をしなければいけなくなることでもある。そこで、もっと若い時期に社長職をバトンタッチすることが求められてくるだろう。

日本の社長たちががんばるようになるのはよいことだ。とにかく一人でも多くの消化試合を戦っている社長を減らすこと──。それは結果的に、株主のリターンを高めるだけではなく、消化試合で働く社員の数を減らすことにつながる。


ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

この記事は 「Forbes JAPAN 「全員幸せ」イノベーション」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

カリスマファンドマネージャー「投資の作法」

ForbesBrandVoice

人気記事