ビジネス

2018.08.13 10:00

車を買えない世界20億人を救う、自動車購入の新たな仕組み


「低所得者層は、仕事に対する意欲、コミットメントは非常に高い。手段がないだけでした。だから、その最初の手段を我々がテクノロジーを駆使して提供したかった」

フィリピンの主要な交通手段であるトライシクル(三輪タクシー)は、そのドライバーの多くが個人事業主だが、低所得者層の人たちはトライシクルを買おうと思ってもローンの審査に通ることができなかった。そのため、既存のドライバーは老朽化した古い車両に乗り続け、ドライバー志望者はトライシクルを所有するオーナーから高い金額を支払って借りるしかなかった。

しかし、GMSの自動車ローンにより、新しいトライシクルを持てればよりいい環境で働き、収入を増やすことができる。また失業状態にある人々も、トライシクルを手に入れられれば新しくドライバーの仕事を始められる。その結果、雇用が生み出され低所得者層の人々の生活は向上する。

フィリピンでは、現地のローン会社などと組み、2000台超を提供。この仕組みはドライバーの勤労意欲を喚起し支払いが促されるため、貸倒率は1%を切っている。従来型ローンの20分の1の水準だ。

さらにGMSは「新しい与信の創造」の試みも行っている。「運行情報をすべて記録・分析できるため、真面目に働いているかも把握できる。そうすれば、継続的に働き、キャッシュフローを生み出せるかという観点で『新しい信用』をつくれる」

今回の資金調達で名を連ねたイオンフィナンシャルサービス・イノベーション企画部部長の中島武人は「我々がリーチできなかった低所得者層に向けてのサービスで、すでに結果を出していた。それがスムーズな事業提携につながり、資本業務提携となった」と話す。両社は17年7月、フィリピンで、トライシクル向けのオートローンの取り組みを開始。イオンフィナンシャルサービスはGMSとの取り組みを中期経営計画にも記載するなど社内での期待も高いという。

なぜ、新たな市場を開拓でき、多くの大企業と資本業務提携を結べたのか─。

その要因は中島をはじめとしたGMS経営陣の「ビジョンへの熱意と着実に実践していく力」であろう。その一端を垣間見られるのが、現地の行政を巻き込みながら事業を進めている点だ。フィリピンでは、マカティ市、パサイ市、ケソン市といった5つの首都圏行政と提携してきた。

「排ガスを多く排出する旧型車両が多く走り、大気汚染が問題となると同時に、雇用問題もある。新しいトライシクルの購入が進むことで解決につながると、行政や現地コミュニティと目的を共有できた。なぜ、行政と提携をするのか。それは、長い目で見て本当に社会に必要かというゴールを共有することが大切だと考えているからです。私たちのビジネスが必要とされているか、をお互いが確認した上でサービス展開していく。そこにすごくこだわっている」

最後に、そんな中島に思い描く未来像を聞いた。

「フィリピン、カンボジアに加えて、インドネシアなど東南アジアで事業を拡大します。さらに、中国、インド、アフリカなど世界の低所得者層へその対象を広げていきたい。世界には車を買えない人が20億人いますから。目指すは、『頑張る人が正当に評価される社会』をつくり、車を使って働ける人を1億人生み出すこと。我々の活動は社会の中の重要なピースになると思って
います」


中島徳至◎グローバル・モビリティ・サービス代表取締役社長執行役員CEO。1967年生まれ。東京理科大学大学院修了。94年ゼロスポーツ設立。事業譲渡後、渦潮電機の現地法人を設立。2013年同社を創業。

文=加藤智朗 写真=小田駿一

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