端的に言えば、部下は自分が良い仕事をした時に上司が褒めてくれると感じられると、最大限の努力をするようになるということ。だが上司が自分の仕事ぶりを褒めてくれないと感じれば、部下は努力しなくなる。
これがこれほど重要な問題であるなら、きっとこの企業の管理職は全員が部下の仕事ぶりを認めて褒めることに注力しているに違いないと、皆さんは思うだろう。しかし悲しいかな、現実は違った。上司が「常に」または「頻繁に」自分の仕事の成果を認めてくれると回答した従業員はわずか38%だった。
これが主な原因となり、自分の仕事ぶりが期待値に達しているかどうかが「常に」分かると回答した従業員はたった29%、「全く」または「ほとんど」分からないとの回答は計36%という結果となった。部下の素晴らしい仕事ぶりを評価する上司がほとんどいない状態で、従業員は自分が良い仕事をできているかどうかをどうやって知り得るというのか?
部下の素晴らしい仕事ぶりを認めたり褒めたりできない上司が多い背景には、ある心理的現象がある。それは、「理由に基づく選択(reason-based choice)」と呼ばれる現象で、E・シャフィール、I・シモンソン、A・トヴェルスキーによる同名の論文で提唱されている。
あなたならどちらを選ぶ?
論文で紹介されている実験に従い、次のようなシナリオを想像してほしい。あなたは、泥沼離婚訴訟の陪審員として、カップルのどちらに子どもの単独親権を与えるかを決めなければいけない。判断材料となるのは以下の情報のみだ。
【親A】
・収入は平均的
・健康状態は平均的
・勤務時間は平均的
・子との関係はそこそこ良好
・人付き合いは比較的安定している
【親B】
・収入は平均より上
・子との関係はとても良好
・人付き合いが極端に多い
・仕事関係の出張が多い
・健康状態にやや問題あり
自分ならAとBのどちらに単独親権を与えるかを考えてみてほしい。実験では、被験者の64%が親Bを選んだ。その理由は恐らく、Bが「平均以上の収入」を持ち、「子との関係はとても良好」だからだろう。
では逆に、「単独親権を与えるべきではない親はどちらか」と聞かれたらどうだろう? 実験では、驚くべきことに55%が同じく親Bを選んだ。Bには良い面がある一方で、「人付き合いが極端に多い」「仕事関係の出張が多い」「健康状態にやや問題あり」といった問題もあった。