救いとなったのは環境だった。
大手企業の新規事業開発はリリースするまで課外活動的に動かざるをえないことがよくある。本業に気を遣うだけでなく、周囲の理解にもなかなかつながらないひとつの要因に思うが、同社の場合、企画が通ると事業部内でプロジェクト化し、就業時間内で取り組める。加えて、月の10%〜20%は他のメンバーも参加できる仕組みだという。
「(会社から)おおいにやるよう言われました」というのは、他社からしたら羨ましい限りだろう。
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同社の新規事業開発の仕組みは立ち上げから2年ほど経つが、専任を立てたのはこの7月。山下氏が初めてだという。
「新規事業≒ビジネスをつくるチームであることを意識しています。これからこうした体制を広げるべく計画中」と、同社の金融ソリューション事業部 DXビジネスユニット長の小原武史氏は話す。
若手に働く楽しさを感じてほしい
こうしたバックアップもあり、山下氏は事業部横断で若手メンバーを中心に積極的に声をかける。ここにはある狙いがあった。若いメンバーは自身の将来像を明確に持っていないことが多い。新規事業に触れてもらうことで、オーナーシップや社会への課題意識を植え付け、働くことの楽しさや成長を実感してもらいたかったのだという。
とは言うものの、うまく機能するまでは時間を要した。10人ほど集め稼働してもらおうとしたが、「限られた時間でアウトプットを出せるようなタスクの振り方に苦慮しました」と漏らす。メインでお願いしたいことではない庶務業務が中心となり、思い描いていたようにはいかなかった。
そこで、自分ですべて指示するやり方から一転、機能単位でチームを設定し、チーム毎に進め方を決めてもらう形式に変え、アウトプットは週次タイミングで確認するようにした。これが功を奏し、スムーズに進むようになったという。
電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部 DXビジネスユニット デジタルイノベーション部 Startup Factory 山下雄己氏
「新規事業は、受託開発のスキルセットとはまったく異なる」という山下氏。
「CRYPTALSのようなBtoCは仮説検証をいかに早く行うかが大事です。手を動かせるメンバーでないとスピード感についていけません」。加えて、ビジネスやテクノロジー、クリエイティブといったスキルを社内に浸透させるのが大事と説く。メンバー1人ひとりにもどこかひとつ軸足を置き、他の領域を共通言語として話せるようになることを目指しているという。
トークンエコノミーで多様性を受け入れる世界を実現
AIやディープランニングで画像や音声認識の精度は格段に上がったが、自然言語は研究段階。フェイスブックでさえもフェイクニュース対策に悩まされている。「ここにブレークスルーが必要です」と山下氏は話す。
「CRYPTALSは自然言語の情報の質をインフルエンサーに置いていますが、良質なアルゴリズムが作れたら、世の中の人が安心してみられるメディアができるのではないかと思っています」
今後は、多言語化、さらには通貨の発行等も検討しているという。「ひとつのコミュニティに依存することなく、自身の価値観に合った多様性を受け入れる社会をトークンエコノミーで実現したい」と語る山下氏の挑戦は始まったばかりだ。
連載 : 世界を目指す「社内発イノベーション」事例
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