人工生命会議で見えた、AIの限界と空騒ぎの危険

ロボット起業家・研究者 ロドニー・ブルックス氏


そのブルックス氏は会場で、人工生命/AI研究者たちに「類型に陥っていないか、部分的な見方になっていないか、いまに縛られていないか」と問いかけ、気がつかずに陥りがちな例を以下のように紹介しました。

・実験を都合よくするため、非現実的な設定にしてしまう
・グローバルでなく、ローカルでの最適化に走る
・簡単な動きのところに留まり、大きな事柄を見過ごす
・たくさんの事柄を分類して個別に考え、共通点を見過ごす

そして、「ムーアの法則で進歩を続けるコンピューティング・パワーは研究者にとって麻薬ではないか?」とグサッとくることを問いました。ディープラーニングは「ゲームで使われていたGPUプロセッサが速くなったおかげ」とも言われるように、計算力の向上により研究が進歩し、新しいことをしなくても論文を書くことができるからです。

その上でブルックス氏は、新しいモノより「ジュース」が必要だと唱えます。ジュースとは、量子力学や微積分、コンピューター(計算)のように、説明力を持つ“新しい何か”です。言い換えれば、新たな切り口がないとこれまでの延長上にとどまり、ブレークスルーは起きにくいということ。ブルックス氏は「個別の研究や論文だけでなく、こうしたもっと大きな視点を持って未来をつくれ」と激励しました。

その熱いメッセージはインパクトがあり、聴講していたアンドロイドの権威、石黒浩大阪大学教授も「ジュースだよ」とつぶやいていたほどです。


ロドニー・ブルックス氏と池上高志・東京大学教授(c)ALIFE Lab

AIの限界と空騒ぎを超えて

あらゆるメディアで毎日のようにAIが騒がれていますが、果たしてこのままバラ色の未来が開けるのでしょうか? ブルックス氏が危機感をもって警告したように、これについては他のALIFE 2018登壇者も「このままでは限界がある」と指摘します。

今回のALIFE 2018には、AIを生業にしようしている日本の大企業からの参加者があまり見当たらず、個人的には「(そうした大企業は)目の前しか見ていないのか?」と少し心配にもなりました。ALIFEは別格ですが、最近は色々な場でAIについて意見を聞かれて、AIの基礎知識はあるかと問い返すと、あまり知らないまま質問している人が大半です。“AIブーム”に振り回されているだけの人が多いようです。

日本では数年前、レイ・カーツワイル著「シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき」が流行ると、「AIが人を超えるか?」ということが盛んに取り上げられるようになりました。しかし、スマートニュースの鈴木健CEOによれば同書は「AIが人の知能を超えるとかほとんど書いてなくて、AIがAIを改善し続けていく可能性について主に論じている」もの。それが誤解されたまま世間で議論されていると指摘します。

しかし、こういう心配はあるにせよ、ALIFE 2018日本開催にこぎつけた池上教授をはじめとするメンバーや学生たちの熱意、ブルックス氏の熱いメッセージに触れ、筆者は未来が楽しみなりました。こうした情熱あふれる知的コミュニティから、“生命エネルギー”が得られた気がします。

連載 : ドクター本荘の「垣根を超える力」
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文=本荘修二

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