人工生命会議で見えた、AIの限界と空騒ぎの危険

ロボット起業家・研究者 ロドニー・ブルックス氏

欧米の2学会が初めて合同して日本にやってきた人工生命の国際会議、「ALIFE 2018」が7月23日~27日、「Beyond AI(人工知能を超えて)」をテーマに開催されました。日本科学未来館に世界各国から研究者らが集まり、AI(人工知能)を超えた大きな概念である“人工生命”の視点で議論されました。

人工生命って何?

ALIFE(人工生命)とは、人工的に生命をつくることを通して生命とは何かを理解しようとする研究分野のこと。人工生命の視点でみると、AIも生命システムの副産物に過ぎないと考えられています。

1986年の研究開始から30年超、今回の「ALIFE 2018」は池上高志・東京大学教授がカンファレンスチェアとなり、世界中から370人の専門家を集めて5日間にわたって開催されました。

前日の7月22日にはプレカンファレンスがひらかれ、メディア・アーティストで研究者の落合陽一氏、脳科学者の茂木健一郎氏、スマートニュースの鈴木健CEO、起業家でベンチャー投資家の孫泰蔵氏など日本の先端頭脳に加え、ライドシェアの巨人ウーバーのAIラボを創設したケネス・スタンレー氏など海外からも各分野のリーダーが登壇しました。


セントラルフロリダ大学教授ケネス・スタンレー氏(c)ALIFE Lab

人工生命というとSFに出てくる怪物を思い出す人もいるでしょうが、留守中に家の掃除をしてくれるルンバも人工生命の一つと言えます。最近話題のディープラーニング(深層学習)によるAIは、人の脳をヒントにした神経ネットワークの研究から生まれました。

このように、ALIFEでは、自律的な(生命の特徴をもつ)ソフトとハードをつくったり、生命から学んでシステムを創造することに学際的に取り組んでいます。また、人がどう感じるかという脳科学やアートを含む広いスコープで「生命とは何か」を考えて研究しています。

森全体を生命として話すことがありますが、一つ一つの個別の生命だけでなく「エコシステム(生態系)」を生命として捉えることも研究されています。ツイートが拡散していくネット上での動きや巣をつくるアリの群れなど「集合体」を大きな生命としてみることもできます。このように人工生命は、定義そのものが議論されていて、まさに発展途上の研究分野といえます。


(左から)現代美術家の宇川直宏氏、投資家の孫泰蔵氏、スマートニュースCEO鈴木健氏、ALIFE 2018実行委員長・東京大学教授の池上高志氏

「新しい切り口」が必要だ

3日目のキーノートは、AIや人工生命の研究者としても起業家としても著名なロドニー・ブルックスが登壇。会場にはそうそうたる顔ぶれの研究者らが集まりました。

MITのコンピュータ科学・人工知能研究所の創設者でもあるブルックス氏は、後にルンバを開発するiRobot社を1990年に共同創業。2011年まで同社のCTOや会長を務め、ロボティクスやAIにおいて今も世界のリーダーであり続けています。

また彼には“チャレンジャー”らしい逸話があります。後にヒット商品となるルンバほか多くのロボットに採用された革新的なサブサンプション・アーキテクチャーは、1986年の論文発表時にはAIの重鎮らから批判されたり、無視されたりしました。しかし、1991年にはAI界の若手研究者の最高賞(IJCAI Computers and Thought Award)を受賞。その受賞式で、重鎮たちを「だからダメなんだ」とこき下ろしたのです。
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文=本荘修二

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