一般的に、地方自治体が弁護士や公認会計士を直接雇用することは珍しいが、奈良市では弁護士3名、公認会計士1名を直接雇用している。専門家の力を借りて、起きてしまった不正に対処するだけではなく、業務フローを徹底的に見直し、不正が起こらない仕組みを地道につくり上げた。
しかし、その採用も簡単なものではなかった。弁護士に関しては、募集してからの3年間で実務経験者の応募はほとんどなく、約10年をかけてようやく3名を採用した。公認会計士も同様に、採用を粘り強く行い、ようやく1名の採用にこぎつけた。
これらの士業以外にも、従来あまり自治体には存在しない人材の登用も進めている。民間企業出身者はもちろんのこと、国家公務員や戦闘機のパイロットの転職も受け入れた。多様化する市民の価値観を理解するため、役所も多様化する必要があるからだと仲川は言う。
「奈良だけはやめとけ」
仲川は、市長に就任する前、国際石油開発帝石を退職後、地元へ戻りNPOに転職していた。NPOに勤めて強く感じたことは、本当に助けが必要な市民は、その声すら上げられないという現実だった。それはエリートサラリーマン時代には考えも及ばなかったことだという。
「困っている人の声なき声を拾える行政にしたい」という思いと、「不正をなくしたい」という思いが合わさって、仲川は奈良市長選挙への挑戦を決める。親に出馬の意思を伝えると、「政治家になるのは百歩譲っていいが、奈良だけはやめとけ」と諭された。誰もが二の足を踏む茨の道であったが、仲川の決意に揺るぎはなかった。
改革を進めるなかで、身の危険を感じることもあったであろう。しかし、仲川はその歩みをけっして止めなかった。その理由を問うと、市民皆が「おかしい」と思っているのに、市民皆が「諦めていた」からだと振り返る。正直者が馬鹿を見る状況を徹底的に変えたいと強く思ったのだ。
仲川は自らの行動を「凡事徹底に過ぎない」と続けたが、彼が地道に積み上げた勇気あるアクションを「凡事」だと言いきれる者など、果たして他に存在するのだろうか。
連載 : 公務員イノベーター列伝
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