就任直後、仲川が謝罪したのは、奈良市職員の横領についてだったが、それ以前から市役所は多くの問題を抱えていた。前市長時代の2006年には、市職員が自ら実質的に経営する建設会社に仕事を発注するよう、担当部署に圧力をかけ、逮捕されていた。
ある時は、市役所の入札控室で談合をしている様子がテレビ番組で報じられ、談合に関わった業者3名が逮捕された。それをきっかけに、オンブズマンが奈良市へ損害賠償請求を行う。仲川が市長に就任した後、「談合が推認され、これに反する証拠はない」と、最高裁は談合の可能性を強く示唆した。
その判決を受け、市は関連の疑われた201社の入札資格を1年間停止した。これは入札資格を持つ市内約600社の3分の1にのぼった。紛れもない異常事態だ。その停止処分に対する反発もすさまじく、市の行事で業者に詰め寄られることもあれば、市長室に押しかけてくる人間もいた。
市内600社の建設会社の中には、奈良市には社員や資機材を抱えずに、入札だけ参加する「丸投げ業者」と呼ばれる業者も存在した。意図的に安い値段で受注した後に難癖をつけて追加工事を取ったあげく、実質的な作業ができる会社に文字通り丸投げをしていたのである。
職員が身の危険を感じることも多々あった。利権に関わる者が日本刀を振り回して職員を脅し、警察に逮捕される事件も発生した。また、職員にわざと無理難題を言い、それができないと土下座をさせることもあれば、プライベートの携帯にも絶え間なく電話がかかってくる、いわゆる『追い込み』も行われた。一度常態化した異常な状況を、職員自身の力だけで断ち切ることは簡単ではなかった。
多様化する市民、多様化する役所
これだけの難局に立ち向かった仲川だが、見た目からも無骨さが滲み出る。しかし意外にも、市長に当選する前、新卒で入社した日本最大の石油・天然ガス開発企業、国際石油開発帝石では経理を担当していた。
そのときの上司には、「いい加減なことは許さない」と仕事で絞られた。そして徹底的に叩き込まれたのが、仕組みに重要性を置く業務だったという。その経験を生かし、仲川は市長になっても、短期的な対症療法ではなく、長期的に不正を防止する環境構築を目指した。