「居場所」をつくり続けて
東京に出てきてから29歳で上場したあとに、もっと幅広いことをやろうと思ってカフェを始めたんですね。熊谷さんには「飲食業はやめておけ」と言われたんですけど、ダメと言われるほどやりたくなっちゃうじゃないですか。持っていた株の利益もほぼ飲食店に投下して、一時は10店舗くらいにまで拡大させました。
結局はそれが失敗して、お金もどんどんなくなって、酒に溺れて、気がつくと友達と呼べる人もいなくなって…。あのときは最低でしたね。
「Liverty」という活動を始めたのがそのころです。ダメ人間っぷりを露出していくと、同じように社会からこぼれ落ちてしまった子たちが僕の周りに集まるようになってきた。ひとりじゃ何もできないかもしれないけれど、同じように傷を抱えた者同士だったら何か新しいことができるかもしれない──そうした想いで、それぞれの空き時間を使って一緒にプロジェクトを始めるようになりました。さまざまな起業家がそこから生まれましたし、鶴岡裕太くんのBASEもここから生まれたプロジェクトのひとつです。
何もかも失った瞬間はありましたけど、そのときに見えた世界から出発して、同じようにドロップアウトしてしまった人間が集まって、新しいものが生まれることになった。そう考えると、僕はずっと「居場所」をつくり続けてきたんだなと思います。
最初のロリポップも、クラウドファンディングサイトの「CAMPFIRE」や「polca」も、最近立ち上げた「若き怒りに投資する」ベンチャーキャピタル「NOW」も、ずっと個人に寄り添った小さな声を拾い上げるようなサービス、コミュニティをつくってきたんだなと。それらもすべて、起点となったのは中二のときに引きこもりになってしまった自分。声をあげたくてもあげられなかった、あの頃の思いに行き着くんです。
Livertyから派生した「リバ邸」というシェアハウスは、学校や会社からこぼれ落ちてしまったような子たちが集まれる場所なんですが、自分が中学生のときにこういう場所があったらもっと生きやすかった。そういう場所を、いま、自分の手でつくっているような感覚はすごくあります。
小さな一歩からはじまる
人間って誰しも、1冊の小説になる分の人生を歩んでいるものだと思うんです。たとえば年齢=ページ数とすると、僕は39ページまで来ていて。福岡で生まれて、中学でいじめにあって引きこもって、親が事故を起こして破産をして、起業をして、上場までして、でも失敗をして…というストーリーがある。人生とは、自分の小説の次のページをどう描こうか、さらにその次のページをどう描こうか、という積み重ねだと思うんです。
ここでいきなり僕が宇宙を目指すというのも、それはそれで面白いストーリーかもしれないけれど、そういう描き方は自分には出来ないと思っているし、するつもりもない。これまでの39ページがあるからこそ、いま描きたい1ページがある。その積み重ねでいまここにいる、という感覚があります。
いきなり大きな仕事をしようとしたり、大きな夢を描こうとすると、最初の一歩を始められずにそのまま日々が過ぎてしまう、ということはよくあると思うんです。だから、まずは1ページずつでいい。顔が思い浮かぶ身近な誰かに向けて、手紙を書くように喜ばせるといったところから、最初の小さな一歩は始まるんですよね。何をやっていいかわからなくて立ち止まってしまっている子には、いつもこのアドバイスを贈るようにしています。
家入一真◎1978年福岡県生まれ。paperboy&co.(現GMOペパボ)創業者。そのほか、「BASE」、「CAMPFIRE」の共同創業、モノづくり集団「Liverty」「リバ邸」などを立ち上げてきた連続起業家。2018年6月、シードラウンド向けベンチャーキャピタル「NOW」を設立。https://ieiri.net/