──テクノロジーと人間の関係に世間の耳目が集まるなか、MIT主催である点を考えると、メディアや大企業などからも、予想以上の反響があったのでは?
16年と17年で1500以上の組織から応募があった。主に国内からだが、世界中の組織が関心を示してくれた。テクノロジーを利用して人々にチャンスを与えようとしている組織が、それだけ多いということだ。IICコミュニティに参加し、自分たちがやっていることを評価してほしいのだろう。
2年間で起業家やイノベーターに授与された賞金は、総額200万ドルを超える。外国からの問い合わせが多いのにも驚いた。対象を国外にも広げたのは、そのためだ。そうした優れた組織を支援し、テクノロジーが社会経済に果たす役割をめぐる世間の認識や対話の流れが変わるきっかけをつくれれば、素晴らしい。
将来のビジョンは、年々、さまざまな国から応募が増えていることを考えると、世界中の組織と提携していくことだ。そして、テクノロジーは必ずしも仕事を奪う「敵」ではなく、助けにもなる存在であることを人々にわかってもらいたい。
大賞を取った組織には、人々が、より自分に合った仕事を見つけ、スキルを習得し、賃金が増えるような支援サービスを期待したい。IICのゴールに共鳴する組織がさらに増え、ますます多くの応募があるよう希望している。
──『プラットフォームの経済学』のあとがきには、「人類は未曾有の高度なテクノロジーにより、世界を変える、より大きな力を手にした」という趣旨の記述があります。「テクノロジーが私たちに何をするかではなく、テクノロジーで何をしたいのかを問うべき」だと。この哲学がIICに反映されているのでしょうか。
密接に結びついている。あとがきに書いたように、「選択肢が増えたことで、その使い方を決める、われわれ自身の価値も、これまでになく高まっている」。IICを通して、世界中にもっと広がってほしいと思う価値を拡散し、テクノロジーをめぐる対話が有益な方向に流れるよう、後押ししたい。
われわれは、最強のツールを得たことで、自分たちが望む世界を創出できるようになった。テクノロジーによってビジネスチャンスが高まるような、より良い世界を創り出す組織をたたえていきたい。繁栄や経済を包摂的で開かれたものにしていくこと─。それが、われわれに課された大きなチャレンジ(課題)だ。
アンドリュー・マカフィー◎マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院主任研究員で、同大学の「デジタル経済イニシアチブ」(IDE)共同ディレクター。2016年1月「MITインクルーシブ・イノベーション・チャレンジ」を立ち上げた。共著書に『機械との競争』『ザ・セカンド・マシン・エイジ』『プラットフォームの経済学』。