この4部門に絞ったのは、テクノロジーとイノベーションが仕事を奪う代わりに、ビジネスチャンスを生み出すことができる分野だと考えたからだ。テクノロジーを利用して人々に新しいスキルを指南し、仕事をマッチングさせ、金融ツールへのよりよいアクセスを提供する。
たとえば、17年に「テクノロジーへのアクセス」部門で大賞を受賞したAdmitHub(アドミットハブ)は、実に面白いスタートアップだ。
米国では、一部の学生の間で、大学の退学率が非常に高く、中退が深刻な問題になっている。そこで、このスタートアップは、学生が勉強に取り組み、大学生活を続けられるよう、テクノロジーによる支援やフィードバックを行っている(*教育に最新テクノロジーを取り入れたエドテック系スタートアップ、アドミットハブは、AIチャットボットなどのサービスを提供)。
──選考過程で重視することは何ですか。ビジョン、インパクト、参加、拡張性の4つを選考基準に掲げていますね。
その組織が、働く人々の経済的繁栄を高められるだけのインパクト(影響力)を及ぼせるかどうか、(組織のビジョンに)仕事の未来を変革する可能性があるかどうか、人々への影響力を高め、組織も拡張・成長し続けられるかどうかがポイントだ。こうした点において、その組織が、現在どの段階にあり、どこまで進歩できるのかを審査する(*IICホームページの「Process & Metrics」〈選考過程・基準〉に、各選考基準のスコア別説明が掲載)。
他のインキュベーターの多くは、その組織が市場でどれだけうまくいきそうかという商業的成功に注目している。だが、IICは、政府機関やNPO、教育機関なども歓迎しており、対象組織やゴールの点で、他のコンペとは一線を画する。われわれのゴールとは、テクノロジーを使って、働く人々にビジネスチャンスを与えることだ。中間層・低所得層の所得やスキルの人たちにフォーカスしている。
──「Inclusive Innovation」の命名理由を教えてください。なぜ「インクルーシブ・イノベーション」と名付けたのですか。
シリコンバレーなど、世界中でイノベーションが次々と起こっているのは、誰が見ても明らかだ。しかし、そうしたイノベーションが大勢の人々を「排除」していると、多くの人たちが感じている。「exclusive innovation」(エクスクルーシブ〈排他的〉・イノベーション)だ。働く人々からビジネスチャンスを遠ざけ、奪い去っている。
一方、テクノロジーにより、世界経済や労働市場に参入する人々も増えている。「Inclusive Innovation Challenge」(包摂的イノベーション・チャレンジ)としたのは、そのためだ。多くの国々で収入格差が広がるなか、テクノロジーの力で格差を縮小させ、働く人たちにチャンスを与えようと努めているイノベーターや起業家、企業などの組織に報いたい。