彼女たちが「見てください」と言わんばかりに、自分たちの家を案内する。日本円で2万円ほどの少額融資から始めて、市場で物売りをしていた女性は、いまでは長屋のような建物を建てて、アパート経営を行っていた。その部屋を覗くと、若い母親が赤ん坊をあやしている。
家の軒先でお菓子や文具を売る30代の母親は、「夫の職場を見ますか」と、小さなアルミ工房を案内した。仏教国らしく、仏像を居間に置くための棚を従業員とつくっていた。
「一カ月の売り上げはどのくらいですか」と、慎が尋ね、その答えを聞きながら、慎は即座に計算して「かなり頑張っていらっしゃいますね」と解説する。
「写真を撮らせてもらえますか?」。慎が首からぶら下げたカメラを、夫婦に向けた。五常を設立後、彼は銀座にある写真教室に通った。法人株主の候補を探して100社以上を歩きながら、「私が見た風景を伝えたくて」と、彼は写真を勉強し、現地に赴いてはカメラを手に借り手たちとの距離を縮めていった。
「月収が増えて子供を学校に通わせることができるなど、わずかなお金で途上国の人々の人生は大きく変わります。お金が人の役に立つ、この空気感を伝えられるかどうかが重要だと思ったのです」
ピープルビジネスは、五常に投資したリンクアンドモチベーションの麻野耕司が取締役会で出資を提案する際に言った言葉だ。「人と人との接点をつくり、それが社会を前に進めていく」。その接点は、生命保険の契約者、英国のデータ企業、世界各地の投資家、そして借り手の女性たちが面倒をみる地域の老人まで、少額融資という縁で国境を越える。一方で、ミャンマーに短期的な利益を目的とした金貸しがどっと増えたように、資本主義は誘惑との戦いの歴史でもある。
慎は、「民間版の世界銀行をつくる」と宣言している。言い換えるなら、彼が築くのは、誰もが一肌脱げる仕組みだろう。それこそが、ピープルビジネスなのかもしれない。