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「彼が借り手ミーティングで話すと、会場が爆笑の渦になるんですよ」と、慎に紹介されたのが、77歳のミン・スウェである。国連などの国際機関で長く働いてきた現地法人のトップだ。スウェは、多重債務者の問題を話し始めた。

「(ミャンマーが市場開放して)たくさんのMF機関が入ってきたが、その多くは都市部のヤンゴンに集中していて、コストがかかる農村には行かない。彼らは客のローンを確認せず、一人に対して3〜4の機関がお金を貸し続ける。返せないほど貸して、多重債務者にしているのです。MFは社会発展のためにあるのに、彼らは借り手ミーティングも教育もしない。短期的利益が目的なのです」

カネは自立の「機会」を生むが、目先の欲で人生を狂わすこともできる。この戦いに勝つには提供する金融サービスのクオリティを上げていくしかない。

「この高い金利をどうにかしたい」と慎は言う。MFの金利は世界平均で30%程度あり、日本人の感覚では高い。インフレ率や高コスト構造が原因で、それでもグラミン銀行が登場するまでは200%もの暴利を貪る高利貸しが当たり前だった。

「ただ、コスト構造が理由で金利が高いというのは、サービス供給者側の論理であり、お客さんにとっては関係ないことです」

慎が着目したのは、MFが借り手である客と定期的に対面で事業報告を聞き、金融リテラシーの教育を行っている点だ。この密接なネットワークがあれば、マーケットリサーチが行える。どんな洗剤を使っているかなど、あらゆるデータを対面で取得できる。子会社化したインドの金融会社は、インド国内の3分の2のMF機関と40の農協と提携している。このネットワークを含めると、データが取得できる数は700万人に及ぶ。

五常は英国のデータ企業とJV設立に向けた協議を始めた。収益源を利息収入のみに頼らなければ、金利を抑えて機会を創出できる。

もう一つ、画期的だったことがある。

17年10月、第一生命保険が「インパクト投資の第一号案件」として、五常に投資を実施。機関投資家がリード投資家として参加したことはニュースになり、ほかの機関投資家もこれに続いたのだ。

「インパクト投資の概念については協議してきました」と、第一生命の竹内直人運用調査室長は言う。「社会構造の変化につながる」ことに重きを置きながらも、保険契約者の保険料が原資であり、社会的リターンと経済的リターンの両立を目指さなければならない。

両者は事業上のシナジーもあると考えた。海外での保険販売は国によっては代理店が鍵だが、大手銀行などの代理店は既存の保険会社がすでに押さえている。一方、慎はMFのネットワークを使って小口保険の販売を展開できる。

さあ、行きましょうと、私たちはヤンゴンの借り手ミーティングを訪れた。そこで女性たちにこう質問してみた。「MFで嫌なことはありませんか?」。50週かけて少しずつ返済するのは楽かもしれないが、毎週ミーティングに参加し、グループで報告しあうのは面倒ではないかと聞いてみたかったのだ。

すると、子供が二人いるという30代の女性が立ち上がり、真顔で語り始めると、何も言い返せなくなった。彼女がこう話したからだ。

「これまでドロップアウトした人は一人もいません。嫌なことがない証拠です。私たちは事業資金で小さな商売を行い、それで得たお金で自由に移動ができるようになりました。いま地域でグループをつくり、みんなで高齢者の世話をしたり、誰かが亡くなれば、みんなで葬儀をしたり、そんな活動をするようになりました。グループリーダーをみんなで持ち回りにしています。誰もがリーダーを経験すると、いいチームができて、助け合うことは効率がいいのです。これらは、かつて私たちにはできなかったことでした」

文=藤吉雅春 写真=福島典昭

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