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2018.08.03

「ベンチャー型事業承継」は日本の同族経営に革命を起こすか

左から、中山亮太郎(マクアケ代表取締役社長)、山田岳人(大都代表取締役社長)、山野千枝(千年治商店代表取締役)、堀尾司(AllDeal代表取締役)、佐々木大輔(freee代表取締役CEO)


アトツギが抱える「人」の問題

それでも筆者は、今回の発表には一定の価値があると考える。アトツギたちが抱える「人」の問題を解決しうる場になりうるかもしれないからだ。

Forbes JAPANでは「スモール・ジャイアンツ・アワード」として全国250以上の企業を選出、その中から特に優れた中小企業=小さな巨人を選出した。奇しくも山野や理事を務めるマクアケの代表取締役社長の中山亮太郎はこちらのアドバイザリーボードとして協力しており、前述の大都もアワード受賞企業でもある。

そこで取材した優秀な経営者の多くに共通しているのは、彼らが事業を承継した2代目、3代目であること。そして、彼らの語る言葉には先代のエピソードが色濃く登場する。

一般社団法人ベンチャー型事業承継にメンターとして参加し、スモール・ジャイアンツ大賞に輝いたミツフジの代表取締役社長・三寺歩。彼は先代である父親の銀メッキ繊維を活かしてウェアラブルデバイスを開発した。いまでは各所から毎日のように提携の問い合わせが寄せられている。

しかし、スムーズに事業を承継したわけではない。「学生時代、父とはずっと対立していました。会社を継ぐなんて一度も思ったことがありません」と三寺。父は「銀メッキは世界を取る」が口癖の豪気な性格。しかし繊維業は斜陽産業で会社はつぶれかけていた。そんな父親に期待していなかった三寺は、就職氷河期による危機感で大学時代に起業までしている。結局、松下電器(現パナソニック)に就職、その後も外資企業に移り、平均以上の年収を得ていた。そんな三寺が事業を引き継ごうとしたのは、就職してから13年後だ。

こうした確執は、ミツフジに限ったことではない。多くの中小企業で父子の対立が起きていると語るのは、ファミリービジネスアドバイザー協会のフェローとして100社以上の事業承継案件に直接関わった袖川章治だ。

特に多いのは、優秀でカリスマ性を備えた父親と、それを超えられない息子の対立だと袖川はいう。社員も先代の人格的な魅力についてきた人が多く、息子が新たに信頼を獲得するのも難しい。また、どうしても前線で活躍を続けたい父親側も、なかなか事業を譲ろうとしない。

そんな時に第三者視点から承継を促すのがファミリービジネスアドバイザーや、顧問会計士・税理士だ。中小企業白書によれば、後継者を決定した企業の70%以上が「顧問会計士・税理士」に相談している。中小企業の経営者たちが、資金面だけでなく、「人」についての相談相手を求めているといえるだろう。

三寺は、「後継者は本当にひとりぼっちになることが多い。そうしたときにこそ、この団体を利用してほしい」と話す。同僚もおらず、まだ世にないサービスを形にするべく活動するベンチャー起業家の孤独は、しばしばフォーカスされてきた。しかし、事業承継者もそれとは違った孤独感を抱えている。

ベンチャー起業家を取材していると、VCやほかの起業家による強固なコミュニティの存在を感じることがある。資金面や事業内容のレベルに止まらず、同じ辛さを共有できる仲間の存在が、社員や家族になかなか相談できない彼らの精神的支柱になっているのだ。

一般社団法人ベンチャー型事業承継は、この役割を果たすことになるかもしれない。これまで個々の会社単位で行われ、可視化されづらかった事業承継に、新たに「ベンチャー型事業承継」というラベルがつき、同じ悩みを抱える人が集まる場ができる。資金面や事業内容についてはもちろん、これまでなかなか相談できなかった「人」についての悩みを共有できれば、アトツギたちにとってなくてはならない場になるのではないか。

文=野口直希 写真=藤吉雅春

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