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2018.08.03

「ベンチャー型事業承継」は日本の同族経営に革命を起こすか

左から、中山亮太郎(マクアケ代表取締役社長)、山田岳人(大都代表取締役社長)、山野千枝(千年治商店代表取締役)、堀尾司(AllDeal代表取締役)、佐々木大輔(freee代表取締役CEO)

2018年6月20日、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」の設立が発表された。総務省の予想によれば2025年には国内の社長の64%が70歳以上、うち3分の2が後継者不在。中小企業の後継ぎ不足は、日本の産業を覆う大きな課題なのだ。同団体は、これに対処すべく活動する方針だ。

後継ぎを「カッコいい」キャリアプランに

日本に存在する企業の99%以上は中小企業、中でもファミリービジネス(同族経営)はその9割を占めている。しかし、息子世代は家業を継ぐことに対して消極的なことも少なくない。稼げない、将来性がない、都会に出たいなどの理由で、家の事業を継がずよそに就職してしまうのだ。

一般社団法人ベンチャー型事業承継代表理事を務める大阪産業創造館のチーフプロデューサー山野千枝は、同団体の目標として「アトツギ社長もかっこいいと若い世代が思えるカルチャーを創りたい」と語る。

ここ数年で起業、あるいはベンチャー企業への就職は若者のキャリアプランとしてかなりメジャーな選択肢になった。同じように後継ぎに「カッコいい」というイメージがつけば、後継者不在を解消する糸口になるかもしれない。若者の事業承継を多角的にサポートするとともに、多くの人が家業を継ぎたいと思えるようにするのが、同組織の狙いだ。



ベンチャーのように中小企業を経営する

ベンチャー型事業承継とは、主に20〜30代の若者に家業を継ぐこと。後継者が若いうちに承継するだけでなく、事業転換や新規参入など、ベンチャー企業のようにスピーディに操業する場合もある。

例えば、同団体の理事も務める大都の代表・山田岳人は婿養子として29歳で工具卸屋を承継。ECショップや体験型のDIYショップを立ち上げ、工具メーカーと小売店をつなぐという、卸売店の商流を変えた。2015年にはグロービス・キャピタル・パートナーズから「創業78年目のベンチャー」として出資を受けている。

なぜ後継ぎの中でも同族経営、若者にクローズアップするのか。ファミリービジネス白書によれば、同族経営企業はそうでない企業に比べて自己資本比率の平均が高い。投資家の短期的な支持に左右されないため好業績時にも課題な投資に走らず、不況期に備えることができる、長期的な視点で経営できると分析されている。

また、後継ぎが若手であることについて山野は「異業種へのアンテナが高い」「周囲から挑戦を応援されやすい」などのメリットをあげる。東京商工リサーチが行なった経営者への調査でも、「早期・計画的な事業承継準備」「早めに後継者を決定」は円滑な事業承継に必要な要素として挙げられている。

クラウドファンディング、事業策定支援など幅広い支援

一般社団法人ベンチャー型事業承継では、後継者に向けて様々なアプローチからの支援を発表。家業を継ごうか迷っている若者へのセミナー金融機関とのマッチング、すでにアトツギとして活躍しているメンターによる事業相談などだ。

ほかに、研究者機関「リバネス」による開発支援やクラウドファンディング「マクアケ」での資金調達支援も予定している。特にクラウドファンディングは近年、中小企業が新製品を出すきっかけとして活用されている。中村製作所は100年以上の歴史をもつものの、リーマンショックで社員の9割を失った部品加工企業。四日市の特産品である萬古焼の技術を活用した無水調理鍋「ベストスポット」で500万円以上の支援を得た。

このように色々なプランが紹介されたものの、会見では具体的な支援規模などについてはまだ調整段階だと発表。こちらの評価については、今後の結果を待つ必要があるだろう。
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文=野口直希 写真=藤吉雅春

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