テクノロジー

2018.08.02 12:00

食肉をペットボトルでつくる世界 「人工肉」は暮らしをどう変えるか

(左から)インテグリカルチャーCCO 田中啓太、CEO 羽生雄毅、CTO 川島一公



研究室にて細胞を培養するCTO 川島一公
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──SF作品では栄養が詰まったキューブを摂取する世界がよく描かれます。しかし、お二人の話す未来はだいぶそれとは違っていて、人工肉でいまある食事を再現しようとしています。

羽生:キューブ状の食事は、SFの中でもディストピアの世界ですよね。もちろんそれもアリですが、それだけではやはりつまらない。人工肉に対するこうしたイメージも、今後変えていかなければなりません。僕は、誰もが幸せに生きるやさしいSFの世界を実現したいと思っています。

田中:食事は暮らしを形成する重要な文化です。なので文化の維持も重要な課題だと思っています。忙しい人がカプセルで栄養をとるのはいいですが、やはり手間暇かけて料理するという文化がなくなることはないし、なくなるべきではない。
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羽生:消費者としても、ある日いきなりスーパーマーケットにキューブの人工肉が並んでいても買う気になりませんよね。単に食べることができる肉をつくるなら技術的にはあまり難しくないのですが、売れる肉をつくるとなると話は別です。

──では、「売れる人工肉」に向けた課題はどのような点なのでしょうか。

田中:技術面よりも倫理や感情、カルチャー面での問題が大きくなりそうです。単に環境にいいとか栄養面で優れているというスペックだけでは、消費者の心をつかめません。

羽生:それこそ、人工肉でもこんなにおいしいとか脂の量が少ないなど、刺さるメリットも人それぞれですよね。デザインミートを手がける際にもこうした部分に気をつけるつもりです。

一般の方に人工肉について話すと、「え、本当にSF世界のものを作っているの!?」と驚いてもらえるのですが、まだ現実の問題としてイメージできる段階ではありません。人工肉についての意識調査を行おうにも、現物を見たことがない人がほとんどなので肯定も否定も起きないのが現状です。

──これまでになかった食べ物なので、将来的にはいろいろ議論が起きそうですね。

田中:東アジアで人工肉を手がけている会社はインテグリカルチャーだけですし、カルネットシステムは独自技術なので、全世界でもうちだけです。ですが、アメリカでは魚肉を培養している企業もありますし、最近はこれまで輸入で肉を確保していたイスラエルが鶏肉の培養に力を入れています。

面白いのは、イスラエルのベジタリアンたちの間で人工肉を食べても良いのか議論が分かれていることです。ベジタリアンと一口に言っても、栄養面やアニマルライツ、宗教の戒律など、肉を食べない理由は様々。既存の肉を食べない人でも人工肉なら食べてもいいと考える人もいるそうですし、やはりダメだという人もいるそうです。

羽生:現在の食料生産を維持するのはおそらく不可能です。そんなときに、「細胞培養」はいまの食事に近い、あるいはそれを拡張するための重要なインフラになってくれるはずです。

インテグリカルチャーは、将来的には「細胞農業」のインフラ会社を目指しています。PC業界におけるマイクロソフトのように、人工肉に関わる全ての人にとってなくてはならない存在になりたいですね。

文=野口直希 写真=菅野 祐二

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