中国の人たちはどうして自宅の内装を自分たちの手でやるのか?

「你努力挣钱养家,我负责貌美如花」(あなたは金を稼ぎ、家を養うことに努力しなさい。私は花のような美しさを担当します)というコピーのマンション広告


壁の色や照明器具の選択は、住む人の好みが出るものだが、中国では一般に、業者を通さず自分で選んで購入するという。業者に頼むと、間でマージンを取られるのが落ちだし、いまの時代、ネットでそれらは手軽に購入できるからだ。

また、上海にはショールームがたくさんあるし、世界中の住宅設備メーカーの商品を直接見ることができるので、目も肥えてくる。「ショールームで見てイメージをつくり、ネットで予算に見合った国内企業の商品を買うというのが一般的です」と彼女は話す。これが当世風中国人の賢い購入術だ。


上海市内で住宅設備のショールームが最も多く集まっているのが宜山路。CIMEN国際建材名牌中心には海外の有名ブランドが集結している。

問題は、トイレをはじめとした水回り設備だ。Hana花さんが続ける。

「私は日本に何度も旅行に行ったことがあるので、やはりシャワートイレを選びたかった。これだけは日本製品を購入してよかったと思っています。ただトイレの電気工事が必要だったので、ちょっと面倒でしたね」

中国でオープンキッチンはNG

こうした内装の設計やデザインについて主導権を握るのは、中国でも基本的に女性だという。お互い惹かれ合った同士とはいえ、結婚前に約1年間かけて行う最初の共同作業が自宅の内装というわけだ。

その作業を通じて、カップルはお互いの家庭環境や価値観の違いがリアルに見えてくるという。それぞれの求めるライフスタイルが直接関係してくるだけに、なかにはうまくいかず、結婚をやめてしまうケースもあるほどだとか。

そんな人生を賭けた大事業である新居の内装をうまくやるコツについて、Hana花さんはこう語る。

「重要なのは口コミ。自宅を内装したことのある親戚や友人などに話を聞き、うまくいったケースと失敗したケースについて、なぜそうなったかを知ることが大事。そして、自らが取り仕切って内装チームを結成する。壁、水回り、キッチンなどパーツに分けて、それぞれどこで購入し、施工は誰に頼むか、自分で設計図をつくるのです」

まるで現場監督と同じである。「日本のテレビの刑事ドラマでよく『現場100回』というけれど、それと同じ。施工日は実際に自分も現場に行って職人の仕事をチェックする。自分が行けない日は、知人か親戚のおばさんに行って張りついてもらう。そうでないと何をされるか不安だから」と日本通の彼女は言う。

さらに興味深いのは、彼女が話してくれた次のひとことだ。

「どの家にも内装で失敗したという後悔がある」

彼女が言うには、自宅の内装というものはどんなに頑張っても100%うまくいくことはない。壁の色や照明は良くても、水回りに難があるとか、必ず反省ポイントが後で見つかり、後悔することになる。だからこそ、友人が自宅の内装をすると聞くと、ついついアドバイスしたくなるのだそうだ。

これは一例だが、中国の家庭にはオープンキッチンはNGだという話がある。ある時期まで中国では多くの人がテレビドラマに出てくるようなオープンキッチンに憧れ、自宅に設置したのだが、中国料理は油を多く使うため、リビングにまで油が飛ぶことになったという。中国ではキッチンとダイニングは区切られたスペースであるべきなのだ。


中国の家庭に欠かせない、キッチンのレンジの上に取り付ける油の吸い取り機器(升降油烟機)。新商品が続々発売されている

だが、失敗もあるからこそ、内装には達成感があるとHana花さんはいう。「まさに人生の一大事。でも、中国では子供が学校に上がる頃、より教育レベルの高い学校の地元に引っ越したいという家庭もある。10年もたつと、また内装を考えなければならないという人は多い」という。この大仕事も、人生で1回だけとは限らないのだ。

前述のように中国では職人の質が低いため、どの家でもとくに水回りなども10年に1度は改修しなければならない。しかも、前回うまくいったからといって次回もそうなるとは限らないという。「品質の確保や均一化が難しい」と地元の設計業者自身が語るような状況でもある。そのため、中国の人たちは、生涯、内装の問題に頭を悩ませていかなければならない運命にある。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文=中村正人

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