会社員兼イタリア料理研究家 19年前から始めた「ひとり働き方改革」

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お気楽そうに見えるイタリア人だけど、彼ら1人1人が抱える現実は、日本人のそれとまったく変わりない。嫁姑のトラブル、借金、介護、相続などなど。さらにイタリア全体が抱える闇はおそらく日本より深刻だ。上がり続ける失業率、博士課程を経ても就職口が見つからない現実や頭脳流出問題、移民受け入れの是非、政治の腐敗、何より、長すぎる経済不況。

それでも、前を向いて生きることを忘れず、隣近所の子供たちを「将来の宝だから」と地域全体で世話を焼き、昨日まで悪口を言っていた人でも困っていたら手を差し伸べ、そしてあいかわらず、「明日の夜ごはんは何を食べるか」を前の日から議論する人たちの毎日は、半端なく堂々としていて、あったかくて、そして力強い。どんな逆境にも負けない、生きることの本質が、そこにある。



そして彼女たちの、そのたくましい生き様そのもので、私の心許ない人生の背中を、どんな時も、どーんと押し出してくれる。だからこうして、毎年毎年、通ってしまうのだと思う。

ひたすらに「働き方改革」の先を行く

さて、こんな私に遅れること19年で、世の中はやっと「働き方改革」に乗り出した。いまなら目的が料理修行でも休職は認められ、堂々とイタリアに渡れるかもしれない。でも、こういうのは、コソコソとやるから燃えるのだ。ちょっとした後ろめたさがあったほうがモチベーションは倍増する。たった2カ月しかないと自分を追い込んだからこそ、大きな収穫があったような気がする。

「いやあ、やっと会社が山中さんに追いつきましたね」

最近、「年下の上司」たちにこんなことを言われることが増えた。しかし、言わせてもらえば、まだまだ私には追いついていない。悪いけれど、これからも先を行かせてもらおうと思う。そして、私はあいかわらず、次々に出世して行く同期や後輩を横目で見ながら、イタリア・マンマの味を究める道を、ただただ進むのだ。

文=山中律子

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