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会社員、イタリア家庭料理の道をゆく


いや、しかし、どうかな。イタリアにのめり込んでなかったとしても私の私生活たるや、仕事に邁進できる状況とはほど遠かったのも事実。ただでさえ高齢出産で長男を出産し、小学校に上がってやっとひと段落と思ったところで8歳違いで次男が誕生。人生ゲームの「振り出しに戻る」よろしく、1からのやり直しだ。

アラフィフの身体に鞭打って、左肩にはパソコンのバッグと、洗濯物でいっぱいの保育園バッグを背負い、右手で次男の手を引いて家路を急ぎ、ご飯食べさせ、今度は長男の塾迎え、なんていう時期は涙が出るほど辛かった。そうこうするうちに今度は親の介護。「ベビーカーと車椅子、一緒に押せないし!」と叫びたくなったこともある。

ただでさえこんな具合で、私生活でヒーヒー言って明け暮れる使い勝手の悪いおばさん社員に、大きな仕事なんて回ってこない。そのうえ、毎年「有給休暇をまとめて1度に使い果たす社員」のレッテルを自らも貼り続け、失われた19年を絶賛更新中。それでもなお、私をイタリアに掻き立てるものはいったい何なのか。



イタリア料理には「人と為り」が出る

それは、行く先々の小さな台所で見つけた誰も教えてくれなかったイタリア料理であると同時に、誰も教えてくれなかった人生のお手本があったからに他ならない。

断言する。イタリア料理ほど、つくり手の「人と為り」が出るものはない。

家事にも子育てにもきめ細かで几帳面なマンマの料理は、エビを炒めた後の空のフライパンでさえブロードを注いで煮詰めて、残ったエビの出汁を使い尽くす。

18歳でひと回り上の幼馴染みに嫁ぎ、ゼネコンの現場監督をしていた夫と共に途上国を転々としながら2人の子育てを成し遂げた元ヤンママの料理は、伝統に縛られずさまざまな食材を臨機応変に取り入れながら、誰もがホッとする優しい味わいを醸し出す。

夫を戦争で亡くして以来、北イタリアの貧しい小さな村で、女手ひとつで男4人を育て上げた御年93歳のマンマは、麺棒1本であっという間にパスタ生地を伸ばし、どんなパスタマシンより勝る速さと正確さで、タリアテッレを大量につくってしまう。

100人のマンマがいれば、100のレシピがある。そしてその味わい深い料理の向こうには、必ず味わい深い人生がある。それぞれの生きざまがぎゅっと凝縮したマンマの味で、愛する人を、家族を、めいっぱい幸せで満たす料理、それがイタリア料理なのだ。

文=山中律子

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