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会社員、イタリア家庭料理の道をゆく

Getty Images

会社員をやりつつ、イタリア家庭料理研究家としての活動を始めて、19年が経とうとしている。

私が勤める会社にもようやく「働き方改革」の波が押し寄せ、目的がなんであれ、休職もしやすい環境になった。そのうち「兼業」さえ許されるのでは? というほど様変わりしつつあるけれど、私が会社に半年間の休職を願い出たのは、いまから19年前。それは30歳をとうに過ぎた頃だった。

仕事が忙しいから、結婚もしちゃったから、もう若くないから……そんな理由で蓋をしていたはずの「夢」が、ある日突然ムラムラと湧き上がってきたのだ。イタリアで料理修業がしたい。日本のイタリア料理店ではけっして食べられない、あの街の、あの郷土料理を自分でつくってみたい。そんな夢の実現をどうしても諦めきれなかった。

しかし、当時は、まだ「24時間戦えますか?」の時代。MBAでも取得しに行くならともかく、料理で休職なんて到底許されず、結局、弊社始まって以来の「有給休暇をまとめて1度に使い果たす社員」のレッテルを甘んじて受けつつ、2カ月間のイタリア行きを敢行した。

与えられた時間はたった2カ月。1日、1時間も無駄にはできない。職場の冷ややかな視線を突き返せるだけの、自分自身が納得のいく成果を得なければいけない。もう後にも先にも引き下がれない、そんな思いで、とにかくがむしゃらに現地で料理を習った。

田舎のリストランテの女主人から農家のマンマ、料理好きの主婦まで、寸暇を惜しんで飛び回っているうちに次々に縁に恵まれ、気がつけば北から南まで転々としながら、ありったけの料理を吸収していた。

まだ夜が明けぬ暗いうちからパスティッチェリアの厨房で修行したり、小さなトラットリアの女シェフの元で深夜まで働かせてもらったりもした。そして、寝る間も惜しんであそこまで貪欲に動き回ったこの体験が、私の会社人生を大きく変えていく。いや狂わせて行くと言ったほうが正しいのかもしれない。



ある意味「失われた19年」

以来、有給休暇をめいっぱい使う作戦で、妊娠しても大きなお腹で、子供が生まれたら乳飲み子を抱えて、2人目が生まれたら2人とも引き連れてと、まるで執念のごとく毎年欠かさずイタリアへ通い続けているわけだけだが、こうした趣味の追求に妥協しない生き方は、会社におけるキャリアづくりと両立するはずもなく、ついに平社員のまま、ここまで来てしまった。

サラリーマン人生を棒に振ってまで料理修行なんか行かなくても、という当時あちこちで囁かれたであろう声が、いまになって大きくなってのしかかってくることもある。確かに、同期で相変わらず役職のない身でいるのは私くらいなものだ。

自分で言うのもなんだけど、仕事ができないわけじゃない。あのとき、イタリアなんて言いださず、一心不乱に仕事して自己をアピールしていたら、いま頃、女性管理職起用の機運に乗っかって、いいところまで行っていたかもしれない……と図々しくも、しかしちょっと真面目に思ったりする。

文=山中律子

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