映画界のシンデレラストーリー 「カメラを止めるな!」が面白い

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そして、この映画の魅力を支えているもうひとつの要素が、無名に近い全12人の俳優たちの演技だ。オーディションをして集めたのだが、選考の基準は「不器用な人」。その結果、顔を揃えたのは、映画を観ると納得すると思うが、かなりの曲者ぞろい。

上田監督は、まずその12人を集め、4カ月にわたって演技のワークショップを開いた。エチュードや既存の映画台本を演じるさせることで、俳優ひとりひとりの個性を確かめていったという。そのうえで、脚本は俳優のキャラクターに合わせて、当て書きしていった。映画のなかで、俳優たちの演技が躍動しているのは、そのあたりに秘密があるのかもしれない。

異例の全国拡大公開へ

筆者は、この映画の公開週に、新宿の「ケイズシネマ」で観賞したのだが、午後3回の上映は、すべて満席。午前中にチケットは売り切れるという現象を、この目で確認した。ちなみに、ケイズシネマでは公開初日の6月23日から上映72回連続満席という記録を打ち立てたという。 

テレビの情報番組などでも、その人気沸騰ぶりはたびたび取り上げられることとなり、いまいちばん観たい映画だが、いちばん観るのが困難な映画として語られるようになった。当初、配給は、この映画を製作したENBUゼミナールが単独で行っていたが、映画配給会社でもある「アスミック・エース」がこれに加わり、異例の全国拡大公開につながった。

ほぼ自主製作のかたちでつくられたインディペンデントの映画が、その面白さが認められ、大手の映画会社と組んで、全国展開の配給網に乗る。日本の映画ビジネスの世界のなかでも画期的なできごとだ。

この映画を、池袋の「シネマ・ロサ」とともに公開した新宿のケイズシネマは、ジャン=リュック・ゴダール作品の上映や、自主製作の作品を積極的にスクリーンにかける劇場として知られているが、上映回の前後には、そのこじんまりした趣あるロビーには人が溢れ、ひさしぶりに素晴らしい映画に対する観客たちの熱気を目撃した。

カンヌ国際映画祭での「万引き家族」のパルムドール(最高賞)受賞とはまた違った意味で、日本映画の未来も、まだまだ捨てたものではない。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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