国会での議論は長期に及んだが、実に不思議なことに、「どうしたらカジノ中毒=依存症の人間や犯罪者を寄せつけないようにするか」という議論ばかりに終始し、「このカジノ競争激化の時代に、本当にIRは黒字を出せるのか?」という議論がまるでないのだ。
「われらが日本につくるIRだから繁盛間違いなし!」という大前提は、バブル時代を経験した筆者には、廃墟になったたくさんの失敗した「テーマパーク」さえ想起させる。
世界で百カ国以上がカジノを合法化しているが、おそらく日本ほどカジノを「必要悪」視し、「やむを得ない」と顔を歪めながら導入する国はない。そして、長年、新規ビジネスの立ち上げをコンサルタントとしてかかわってきた立場からして、導入する前から敵視されるビジネスなどうまくいったためしがないと懸念する。
日本のカジノが生き残る道
まず、今回可決された法案では、納付金という形で、粗利益に30%も課金される。経費を控除したあとの純利益でなく、粗利益の3割を持っていかれるということが、どれだけ高額な「みかじめ料」となるかは、ビジネスに携わっている方々には自明のことだろう。もちろん、純利益にも普通に国税と地方税がかかっていく。
これほど行政に搾取される産業がかつて日本にあっただろうか? 日本につくられるカジノが生き残るには、2つの道しかない。売上のボリュームを圧倒的に上げるか、顧客に負担を強いるかだ。
しかし、カジノはIR施設全体のたった3%が設営の限界と規制されているから、前者には期待できない。なので、後者を選択し、つまりスロットマシンを出なくする選択しかない。「出ない」日本のカジノが、近隣諸国の「出る」カジノと比べて魅力がなくなるのは火を見るよりも明らかだ。
さらに、カジノも懸命なマーケティングなくてはけっして成り立たないが、広告や賭け金の金融には行政(カジノ管理委員会)が規制をかけることになるので、ここでも「悪者」意識が強いほど、プロモーションができなくなる可能性を示唆していて気が重くなる。
なぜこんなことになったのか? 筆者は、カジノ反対派があまりに「依存症」の問題に偏向しすぎて、議論を偏らせてしまったからだと考える。残念ながら、去年、筆者が「巨象再建」(小学館文庫)という近未来のカジノ経済小説で警告した通りの道筋を進んでいるように見えて、胸が痛む。
ラスベガスに20年以上いれば、これまでたくさんの日本の県庁や議会、中央行政の相談を受けてきたが、勉強熱心なのは賛成派ばかりで、反対派は忌み嫌って視察にも来ない。知識レベルのアンバランスは顕著だった。