無能だった私を変えてくれた凄い人たち──タグボート 岡康道さん(後編)

最近の岡さん。いつも、文脈に沿いながら、意表をつく面白いことを話してくれます。


松尾:映画はなんとか達成できますが、本は難しくないですか?

:そうなんだよ。俺も達成が苦しくなる時がある。そういう時は、詩集にするんだ。しかも、難しくないやつな。谷川俊太郎なんかは薄いやつがあっていいぞ。

松尾:えーっ、ずるい!詩集でもいいんですか!?

:いいに決まってるだろ。詩集だって、立派な1冊だよ。言葉の選び方の勉強にもなる。

自分が自分に課したことさえ、ゲームのように楽しみながら勝とうとする。岡さんは、勝つだけでなく、いつも自分らしく勝つ方法を考えているように見えました。 

あれから二十数年が経ちましたが、岡さんは、今も50冊50本を続けているそうです。タグボートを設立してからの方が忙しくなったであろうことを想像すると…。競合コンペで彼らに勝つためには、日頃からどれだけの仕込みをすれば良いか…。日々の鍛錬の連続が、自分を遠くの世界に運んでくれるのです。

そして、今でも鮮明に覚えている岡さんとの会話があります。会社の階段の踊り場を歩いている時でした。「どんなCMプランナーを目指したらいいですか?」という新人の私の曖昧な質問に対して、

:オレの真似はするなよ。最近、オレの企画を真似た人間が出始めている。でも、そいつらは、ぜったいにオレには勝てない。雅彦さんの真似をした人間も、結局、誰も勝てなかった。

松尾:じゃあ、誰を目指したらいいですか?

:小田桐さんだな。オレには、オレの型がある。雅彦さんにも、雅彦さんの型がある。でも、小田桐さんには、それがない。小田桐さんの仕事は、スポンサーや商品に合わせて、毎回、型が変わってるんだよな。そんな人、他にいないぞ。ずっとモデルチェンジしてる。

松尾:モデルチェンジ…?

:そう。小田桐さんがやって成功したことを誰かが真似しても、もう小田桐さんはそこにはいないんだよ。そうだよ、おまえは小田桐さんを目指せよ。

小田桐昭さんはクリエイティブディレクターとして、松下電器、国鉄、トヨタ、東京海上、資生堂、サントリーを担当されて、数々の名作をつくり、日本のテレビCMを牽引。制作したCMのほとんどがACC賞を受賞している「広告の神様」と呼ばれる方でした。 

そして、この会話の10年後、私は小田桐さんの下で仕事をすることになり、仕事面だけでなく、人生の師と仰ぐことになろうとは、この時は思いもよりませんでした。 

とても有難いことに、これまでに私がクリエイティブ人生の岐路に立った時、岡さんに相談すると、視点がガラッと変わるようなアドバイスを頂きました。きっと、岡さんは私にとって、これからも主将なのだと思います。

岡さんの背中を間近で見られたおかげで、今の私があります。岡さん、ありがとうございます。

連載:無能だった私を変えてくれた凄い人たち
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文=松尾卓哉

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