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2018.07.27 17:30

無能だった私を変えてくれた凄い人たち──タグボート 岡康道さん(後編)

最近の岡さん。いつも、文脈に沿いながら、意表をつく面白いことを話してくれます。

最近の岡さん。いつも、文脈に沿いながら、意表をつく面白いことを話してくれます。

二十数年前の電通で、私は第4クリエイティブ・ディレクション局に配属されました。同期も合わせて新人5名を統括し、能力を引き上げる責任者が岡さんでした。(記事前編はこちら
 
しかし、1年間、岡さんは私たちに仕事のことは、ほとんど何も教えませんでした。「教えても身につくような仕事じゃない」と、会社に与えられた役を最初から放棄していました。

当時の岡さんは、クリエイター・オブ・ザ・イヤーを獲る前年で、つくる広告がすべてヒットし、ノリにノっており、全身から無敵オーラが出ていました。大きなスポンサーの仕事が次々と入ってきて、プレゼン、撮影、編集で全国を飛び回り、会社にはほとんどいませんでした。時間をかけて教えようにも教えられなかったのも事実でした。

しかし、岡さんはロケ撮影で東北に行っている間でも、新幹線に乗って帰京し、タッチフットボールの練習には必ず参加していました。私は練習の前後で一緒に移動する時間があったので、時々、仕事に関する質問をしていました。

松尾:どうしたら、優秀なCMプランナーになれますか?
 
:24時間、365日、今、自分がやっている企画がどうやったら面白くなるかを考え続けろ。そうしたら、8年後には一人前になってるよ。
 
松尾:えーっ、そんなにやって、8年もかかるんですか?
 
:早ければ、7年だな。
 
松尾:岡さんも、そうやって、今があるんですか?
 
:当たり前だろ。
 
岡さんが営業局からクリエイティブ局に転籍してきた時、隣の席が佐藤雅彦さん(『ピタゴラスイッチ』、『だんご3兄弟』など、気持ちよくなる音やリズムを中心に、数々の新しい表現技法を作り出した人)でした。自分の企画はまったく通らず、間近で天才のすごさを見せつけられる日々が2年ほど続いたそうです。
 
悶々としていた岡さんは、週に1冊の本を読み、1本の映画を観て、年間50冊と50本を超えることを自分に課して、続けたそうです。そして、読んだ本と観た映画を手帳に記して、たまに手帳を開いては、「俺はこれだけやっているのだから、負けるはずがない」と自分を奮い立たせていたそうです。

私がそれを聞いた時の岡さんは、日本を代表するCMプランナーで、電通で一番の売れっ子でした。ものすごい数の案件を抱え、タッチフットの練習も欠かさず、仕事でのお付き合いのゴルフにも行き、家庭もありながら、まだ50冊50本を続けていました。 

私も真似してやってみました。しかし、続いたのはわずか2年でした。小さな仕事を任されて忙しくなってくると、すぐに達成できなくなりました。プレッシャーの大きな責任のある仕事を数多くしながら、この数字の達成を継続させるのがどれだけ凄いことかを身をもって知りました。ある時、どうやれば達成できるのか秘訣を訊きました。
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文=松尾卓哉

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