伝統を守りつつ変革を進める、「クリュッグ」女性CEOの手腕

クリュッグ社長のマルガレート(マギー)・エンリケス氏(2018年7月、クリュッグのテイスティングルームにて撮影)


伝統を守りつつ、変革を進める

伝統ある組織を変えるのは、たやすいことではなかった。例えば、改革の一つとして、今まではどの年に作っても、消費者からは同じ一つの商品として見えていたグランド・キュヴェに、年ごとのエディション番号をつけた。

また、ボトルの裏ラベルに6桁のIDナンバーを載せ、そのシャンパーニュが「どうやってできているのか」の情報開示を始めた。クリュッグの携帯アプリや公式ウェブサイトでこのID番号を入力すると、そのボトルの基となっている情報がわかる。



例えば、筆者が7月にランスのセラーで試飲した「166eme Edition」の場合、このボトルが「2010年の収穫年のワインを主体とし、1998年まで遡り、13の異なる収穫年からできた140種類のワインをブレンドしていること」、「2017年冬に澱抜きされたこと(すなわち、約7年間、澱とともに熟成された)」、「ピノ・ノワール45%、シャルドネ39%、ムニエ16%の配合」といった情報が示される。

従来の“謎に包まれたメゾン”からは考えられない変革であり、当初は内部での強い反対にもあったが、時間をかけて説得した。今では、これらの情報は、シャンパーニュ愛好家から絶大な支持を得ている。

「リーダーシップには、人の考えに共感し、皆を議論に巻き込むことが大事だ」と話すマギーさんには、しなやかに自分の信念を貫く強さがある。伝統を守りながらも、近年では、音楽とシャンパーニュをペアリングするという「クリュッグ&ミュージック」など新しい発想も取り入れ、さらなる進化を続けている。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文=島悠里

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