タネから育てるIP育成チェーン
無数の企業がしのぎを削ったネット文学サイトだが、覇権を握ったのはテンセントだ。2014年末に盛大文学を買収、翌年には自社サービスと合併させて閲文集団という子会社として独立させた。2017年11月には香港証券取引所に上場、現在の時価総額は651億香港ドル(約9160億円)と評価されている(2018年6月末時点)。
楊晨・閲文集団オリジナルコンテンツ総経理によると、今年3月末時点で所属するネット小説家は690万人、投稿小説数は1000万作を超えている。月間アクティブユーザー(MAU)は1億9,150万人。うち1億7900万人がモバイルユーザーで、スマホでの利用が圧倒的に多い。
2017年に読者が支払った購読料は前年比73%増の34億元(約60億円)に達した。課金したユーザーは平均で月間1110万人。課金ユーザーの平均支払額は22.3人民元(約390円)とマイクロペイメントが浸透していることがわかる。なお、また版権ビジネスも好調で、2017年には100作品以上で版権利用契約が結ばれたという。2017年の版権売り上げは3億6620万元(約64億円)となった。
楊氏は、閲文集団が単に原作の供給源にとどまらないと強調する。
「閲文集団は今、コンテンツ生成プラットフォームからIP運営プラットフォームへの転身を進めている。IP開発(ネット文学からドラマやゲームへのマルチメディア展開)初期にあたっては強力なコンテンツ力という優位を持つ以外に、『中国オリジナル文学ランキング』などを通じて事業者にサジェストしている。またファンのデータを分析することによって、どのIPを選ぶか、さらにはどのような制作やマーケティングが適しているかをサポートしている」
テンセントが得意とするユーザーの分析をエンターテイメント分野にまで生かそうという発想だ。その上で、作家と共同で版権を管理しIP開発と利益の最大化に努める「IP共同運営パートナー制度」「スター作家化戦略」といった施策を導入したほか、実写化やゲームが完成した暁にはその広告宣伝にも閲文集団とテンセントのリソースを使って関わっていくという。
「つまり、閲文集団はIP開発の全過程に深く関わっている」と楊氏は胸を張った。
ネット文学がなぜIP戦略で大きな役割を果たしてきたのか。それは作者の裾野の広さが大きい。ネット文学は一人の人間だけで書けるので、低コストで多くの作品が量産できる。無数の作品からファンを獲得する優秀な作品が登場するという構造だ。巨額の利益を生むゲーム、映画、ドラマといった大型コンテンツのタネを仕込む場をテンセントが抑えたと言ってもいい。
「ウィーチャット」による流量とデータ分析を武器に、IPのタネからゲーム、映画、ドラマという利益を生み出す果実まで全過程を抑える。テンセントはエンターテイメント帝国として盤石の地盤を築きつつある。
この構想は今年4月のIEG年度大会で「新文創」戦略として打ち出されている。IEGを率いるテンセント副総裁の程武氏は、IPのマルチメディア展開を目指す「泛娯楽」戦略とは2つの点で異なると発表している。第一に、従来はIPの産業的価値のみが注目されてきたが、文化的価値を向上させるように取り組むこと。第二のポイントとして、短期的な人気を生み出せば十分と考えられてきたIPの価値をいかに長期にわたり持続し高めていくかという取り組みだ。
つまり、アメリカの「ディズニー」や「マーベル」、日本の「ドラえもん」や「ガンダム」のように、世代を超えて愛されるIPをいかに生み出すかを摸索する段階に入ったことを意味している。