輸入部品の価格が高騰することで、乗用車やトラックの修理代が上がるだけではなく、自動車の盗難も急増するとみられている。特に古い自動車は盗難に遭い、ウォーターポンプやオルタネーター、エンジンブロックなどの交換部品に解体され、ウェブサイトで販売されたり、違法な部品取扱業者に売られたりすることが多い。
消費者へのしわ寄せはそれだけではない。自動車部品の高騰と盗難の増加により自動車保険料が上がることも予測されている。米国保険協会(AIA)、全米相互保険会社協会(NAMIC)、米国損害保険協会(PCI)は、米商務省に向けた共同声明で「関税が課されれば、米国全土50州で、保険会社から保険規制機関に数百件、あるいは数千件の保険料引き上げ要請が提出される可能性が高い」と指摘した。
自動車部品の製造・販売・小売企業を代表するオートケア協会は、関税が適用された場合、米国の家庭で車を所有するコストは年間700ドル(約7万8000円)以上増えると主張する。
また、部品の値段が上がることで車の所有者が必要な修理を先延ばしにし、自動車の燃費に影響が出る可能性もある。そうなれば消費者の家計を直撃し、排ガス関連の修理の場合は環境にも悪影響だ。
修理を怠ることで、運転手や乗客、通行人にも危害が及ぶ可能性があるとする声もある。ミシュラン・ノース・アメリカ、クーパー・タイヤ・アンド・ラバー、住友ゴム工業のタイヤメーカー3社は、米商務省への共同書簡で「消費者がタイヤの交換時期を延ばすことで、交通事故と死亡者数が増えるのではないかと危惧している」と述べた。
これに加え、車の値段自体も上がることで、新車の売り上げが減少し、中古車販売が増える。金利と新車の値段はただでさえ上がっており、自動車の価格問題はすでに危機的状態にある。25%の関税が導入されればおそらく、自動車業界は崖から突き落とされるだろう。
米国で製造される車の部品には、輸入品が25~80%含まれている。自動車研究センター(CAR)による分析では、自動車と自動車部品に対する関税や輸入制限によって、米国での自動車製造コストは約2270ドル(約25万円)上昇し、典型的な輸入車の店頭表示価格は6875ドル(約77万円)増加するとされた。
CARによると、これにより米国での新車の販売台数は200万台減少し、約75万件近くの雇用が失われる。しかしこれは、ピーターソン国際経済研究所が出した報告書に比べれば、控えめな見積もりだ。同研究所は、関税が課されれば、自動車ビジネスに関わる米国労働者が最大100~120万人失業すると予測している。