サカナクション山口一郎「20代は、影響受けるものを自分で決めない方がいい」



「METROCK 2018」に出演するサカナクション(写真提供:TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 撮影:岸田 哲平)
 
「探す」遊びに没頭していた

一気にファンが増えたのは、2010年にリリースした「アルクアラウンド」という曲を発表した後です。このミュージックビデオが評価され、テレビ出演も増えました。

街を歩いていると声をかけられるようになりました。自分の知らない人たちが自分を知っている。売れたはいいものの、果たしてこれは本当の自分だろうか。再び悩みました。

「自分って何だろう?」



そのときつくったのが「アイデンティティ」という曲です。ちょうど30歳のときでした。10代、20代で「自分って何だろう?」と問い続け、その答えが20代の終わりでようやく見えた。それがあったからこそ、この曲が生まれました。

フェスで何万人というお客さんが「アイデンティティがない、生まれない」って言いながら手を上げているっていうのはある種コンセプトアートのような風景でしたけどね(笑)。

いま思い返してみると、僕の20代は「自分が向かっていきたい先はどこなのか」「人生において何がしたいのか」をひたすら考えていた時期でした。

正直、大きな夢もなかった。武道館や東京ドームでライブをしたいと思ったこともありませんでした。

それよりも、自分が何をつくりたいのかとか、何に反応するかとか、精神的な部分に執着していましたね。オタクみたいな感じでした(笑)。

きっと、生まれ育った時代背景も関係していると思います。僕が生まれたのは、「探す遊び」の時代です。1980年生まれなんですが、当時はインターネットがまだ今みたいに普及していなかった。情報を手に入れるのにも苦労しました。雑誌を見て情報を得ることが多かったですね。

CDを1枚探すのも大変でした。3000円のアルバムをジャケ買いしたらハズレだった……といったようなこともよくありました。

そうやって手に入れたものを、もったいないから繰り返し聴く。難しいものにこそ何かあるはずだという期待感があったんですね。そうすると、そのうちに不思議と良さがわかってくる。そんな自分に対して高揚感が湧くんですよ(笑)。

僕は「探す遊び」を続けてきたから今の自分があると思っています。いまの20代を見ていると、「探す遊び」の方法を知らず、「浴びる遊び」をしている人が多いように見えます。ちょっと残念ですね。
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文=明石悠佳 写真=小田駿一

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