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2018.07.29

「トークンエコノミー」が切り拓く未来に繁栄はあるのか?

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先月、1980年代より商品開発などで活躍されている元祖コンセプターの坂井直樹さんにお会いした。坂井さんから、「いまの中国の変化の速さは、ちゃんと見ておいたほうがいいですよ。強い国家権力のもと、10億人がスマートフォンを使って壮大な社会実験をしています」と、彼の国でのキャッシュレスの浸透ぶりを教えていただいた。

とにかく現金を使うシーンがほとんどなく、いまや路上生活者もQRコードを掲示して道端に座っているのだそうだ。

アリババの最新のリアルスーパーでは、顔認証でピックアップした商品を、アリペイの無人決済で行い、5km圏内なら30分以内に配達してくれるという。もはや「O2O(Online To Offline)」ではなく、「OMO(Online Merges Offline)」なのだそうだ。

そして、モバイル決済とともに注目すべき動向として、それに「個人の与信」が連動しているのだそうだ。アリババ系の信用調査機関は、決済における膨大な取引データと、政府のオープンデータも利用して個人のポイントを算出する。

「買い物履歴のみならず、約束や契約など社会的ルールを守る人ほど、社会信用スコアが上がり、中国社会で暮らすのに有利になる。それを国民がゲーム感覚で楽しんでいるかのようで、確かに上海の街で出会う人々は以前に比べてマナーが良くなっている」と坂井さんは教えてくれた。

このようなことが進めば、個人のすべての行動履歴がトラックされ、個人が一元的な「ポイント制評価」にさらされる。社会信用ポイントは、個人に紐づいて増減する交換の可能性のない「トークン」だ。利便性や安全性と引き換えに、失うものを想像すると末恐ろしい。やがてジョージ・オーウェルが描いたビッグ・ブラザーは現実のものとなるかもしれない。

「トークンエコノミー」が切り拓く未来は、果たして、豊かで快活な人間関係をもたらすのか、はたまた出口の無い暗鬱な管理社会を生み出すのか。これからのわたくしたちの生き方が問われている。

連載:ネーミングが世界をつくる
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文=田中宏和

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