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失敗しないAIプロダクトの作り方

Davizro Photography / Shutterstock.com

連載3回目(1回目2回目)の今回詳しく紹介するのは、AIプロダクトの価値をチェックする5つのポイントのうち2つめ、すなわち「2. その製品で答えようとする問題は『同質性』が低く、あまりにケースバイケースなものではないか」というものです。

前回取り上げた囲碁や将棋のAIはこの観点で言えばとてもAI向きだ、と考えることができます。雨が降ろうと槍が降ろうと、将棋やAIのルールが変わったりはしません。同じ盤面の状況下で、ある日最善手と考えられた手が翌日には全く機能しない、ということがないわけです。

しかし、これが例えば高級ホテルのコンシェルジュをAIで代替させようとすればどうでしょうか? 世界中から訪れる多様なニーズを持ったお客の漠然とした要望に対して、最適なサービスを提供するのがコンシェルジュの仕事ですが、これは「同質性」とは真逆のものです。

仮に旅行客に「ちょっとした空き時間が出来たから何か楽しい体験を」と言われたとして、オペラに案内すべきか、相撲に案内すべきか、あるいは高級百貨店のショッピングに案内すべきか、というのは難しい課題です。

もちろんこのような場合でも顧客の性別、年代、国籍や宗教、価値観に関する十分なデータがあれば、ベテランコンシェルジュの仕事をAIに模させることは可能かもしれません。しかし、同質性が低いことの真の問題点は、「今後対応すべきケースを十分に網羅しきることが難しい」というところにあります。

一流のコンシェルジュがその観察眼によって海外からの旅行者の服装や話す言語からその国籍や宗教、価値観をある程度当てられるということは、それをAIに代替させられる可能性も考えられます。おそらく十分に旅行者の画像と音声、それと国籍などの属性に関する「正解」のデータ、さらに言えば「どのようなアクティビティの満足度が高いか」という「正解」のデータを収集して機械学習のアルゴリズムにあてはめれば、それと同等以上にこうした顧客の属性や好みを当てられるのかもしれません。

しかし、世界情勢というのはいつまでも同じ状態をとり続けるわけではありません。例えばどこかの国が大きな経済成長を遂げて、服装がそれまでの伝統的な衣装から現代的なものを好むようになり、また消費行動も多様化した、ということもあるでしょう。どこかの国同士の関係性が悪くなり、一方の国に他方の国と関係する文化を紹介することが失礼にあたる、といったことだってあるかもしれません。

このような状況はいま、世界情勢をチェックし続けるコンシェルジュの努力と、そこから先の相手を思いやる想像力によって対応されています。しかし、現状のAIはデータを収集した状況が「このまま続くとして」という仮定のもとで最適解を選び続けるだけの仕組みです。

つまり、顧客の画像や音声、属性や好みに関するデータを収集した状況が「このまま」でなくなってしまえば、その最適解は大きく変わります。また、収集したデータに含まれない例外的な状況に対しての判断が大きく間違ってしまう、というリスクもあります。

よって、同質性が低い、あるいは別の言い方をすれば多様性が高い課題に対して作られたAIは、しばしば「大外し」をしてしまい、実用上あまり上手く働かない、という可能性をよく考えておかなければいけません。

文=西内啓

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