北米では過去19年間に水陸合わせて少なくとも7件のダックボート死亡事故が発生し、計25人以上が死亡している。
過去には米国のフィラデルフィア、ボストン、ホットスプリングス、シアトル、カナダのケベックなどの都市部や地方部で、観光客や通りがかりの人が死傷するダックボートの事故があった。フィラデルフィアでライド・ザ・ダックス社が運営していたダックボートツアーは、2件の死亡事故発生により保険料が330%増加したことを受け、2016年に運行を中止している。
約30人が座れる大型の水陸両用車であるダックボートは、市街地の道路や周辺の水辺を回るツアーに利用されることが多い。米国で稼働中のダックボートは2017年時点で130台を超え、運行地域にはウィスコンシンデルズ、オースティン、マイアミ、サンディエゴ、ホノルル、首都ワシントンなどがある。
ボストン・ダック・ツアーズでは2016年時点で28台のボートを運行し、観光ツアー以外にも、アメリカンフットボールチーム「ニューイングランド・ペイトリオッツ」のスーパーボウル優勝パレードに使ってきた。
ダックボートの元となったのは、第2次世界大戦に投入された水陸両用車「DUKW」だ。DUKWの名は開発年の1942年を意味するD、ユーティリティー(水陸両用)のU、全輪駆動のK、2軸の後輪を指すWを組み合わせたものだ。
「ダック」として知られるようになったDUKWは、ボートの形をした2.5トンのトラックと言える作りで、水密構造の本体と、水中で推進力を確保するためのプロペラを備えている。速度は水中使用時で時速5ノット、陸上で時速80キロメートルだ。
2万台以上のDUKWが上陸作戦用に製造され、初めて使用されたのは1943年のイタリア・シチリア島への上陸作戦だった。後に、米軍や英軍によって太平洋やノルマンディー上陸作戦で使用され、軍隊や弾薬などの物資を上陸拠点に届けた。しかし、ブリタニカ百科事典によれば、「高波と過積載で沈没するDUKWが相次ぎ、数多くの命が失われた」という。