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2018.07.24

米国でまた悲劇的事故 「ダックボート」観光は安全なのか?

Aneese / Shutterstocs.com


そんな退屈な軍用車が、戦後に観光用の乗り物に生まれ変わった。戦時中にDUKWを運転していた中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーの退役軍人が1946年、余っていたDUKW1台を友人と共に購入。景勝地であるウィスコンシンデルズで、周辺地域とウィスコンシン川の観光ツアーに使い始めた。こうして始まったのが、ウィスコンシン・ダック社だ。同社は2016年時点で90台以上のダックボートを運行している。

ダックボート現象は中西部から30都市以上へと広がり、観光名物として人気を博した。ボストンでは、夏の最盛期になると1日最大4500人がダックボートに乗船する。ダックツアーは他にも多くの地域で開催されており、大都市のダックボートツアーに参加すればその街を変わった視点で見ることができる。

しかし、ダックボート業界には長い事故の歴史もある。1999年、アーカンザス州ホットスプリングス付近にあるハミルトン湖で起きた事故では、ミス・マジェスティック号が沈没し、13人が水死した。事故の原因は、元軍用車だったボートの整備上の不備だったとされるが、ボートの天蓋が邪魔になり乗客が車外に脱出できなかったことも伝えられている。

2002年には、カナダのケベック州オタワ川でレディー・ダック号が沈没し、4人が死亡。原因は船体の水密処理が不十分だったこととされている。

ボストンでは2003年、63歳の女性がダックボートから駐車場に転落し死亡。2015年には、スクーターに乗っていた28歳の女性がダックボートにはねられ死亡した。この事故は、DUKWによる他の交通事故と同様、運転手の視界不良が原因とされた。

フィラデルフィアでは、2010年と15年にダックボート衝突事故が発生し、3人が命を落とした。2010年のデラウェア川での事故では、止まったダックボートに、タグボートがけん引する遊覧船が衝突し、ハンガリー人観光客が2人死亡。1700万ドル(約19億円)で和解に至った遺族側の弁護士は、ダックボートを「死のわな」と表現した。

またシアトルでは2015年、車輪軸が故障したダックボートとバスが衝突し、留学生5人が死亡している。

多くのダックボートが抱える老朽化の問題や、構造自体にある運転・メンテナンスの課題に加え、ダックボート業者は規制の面でも独自の問題を抱えている。水陸両用という性質から、水上・陸上での運用を規制する沿岸警備隊や道路交通安全局(NHTSA)といった機関の役割について混乱が生じているのだ。

観光地はそれぞれ、その土地の魅力を存分に伝えるためのユニークで面白い方法を模索している。一方で、デビューから75年を迎えたダックボートは、引退すべき時が来たのだろうか?

編集=遠藤宗生

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